田舎の【農地付き「空き家」約600坪】は、売れるのか?! (後編:地方の「相続不動産」から見えたこと)
公開日:2025-04-14 06:00
目次
■ 前編・中編のあらすじ(ざっくり おさらい)
- 祖父母の遺産「農地付き空き家」の相続が発生
- いざ売却しよう!としたら、登記簿と現況が違うため売却ができない!
- 調査の結果、畑がA市の道路の一部になっていた!
- 問題のあった畑部分をA市に寄付し、登記簿と現況とを一致させることに成功!
- さぁ、売るぞ!
- 不動産屋から値下げ提案される
- 「空き家バンク」にも登録
- 問い合わせが2件あるも…条件が合わず
- 建物の解体価格を見積るがその費用に愕然
- 「農地付き」であることが、「売却の壁」と判明
★前編と中編の詳しい内容はこちらでご確認ください。
・前編➡https://egao-souzoku.hanamaru-syukatsu.com/20241028
・中編➡https://egao-souzoku.hanamaru-syukatsu.com/20250127
後編では【地方の「相続不動産」から見えたこと】と題して、その後、この不動産がどうなったのか?というお話に加え、宅地建物取引士として不動産業界で働いていたこともある筆者が、身内の事例から学んだことをお話しします。
■ 急展開!内覧&申し込み!しかし住宅ローンでまさかの・・・
2024年5月、3件目の内覧申し込みがありました。
しかも売却に不利とされた「農地」が付いている古民家をお探しの方で、5月16日には内覧もされ気に入っていただけたとのことで無事、購入希望の申し込みがありました!
内心、売却成功を確信しコラム(後編)の結末も明るいものになる!と期待しました。しかし…
問い合わせ③:農業を始めたい30代独身男性 → お申込みになったものの…住宅ローンの審査が通らず申し込みを辞退され、売買契約には至らず。
《ワンポイント☝住宅ローン》
今回の売買対象地は全部で4筆あり「宅地」と「農地(畑)」がありました。「住宅ローン」は「住むための不動産に対する融資」のため「農地(畑)」部分の購入には使えません。
不動産の価格は高額なため住宅ローンを組んで購入されるケースも多いですが、その融資が受けられなければ買主は購入を断念せざるを得ないということになります。
融資を使わずに高額な現金を用意できる人は多くはありません。相続した農地を売却したいと思った時に、価格を安くせざるを得なくなる理由はここにもあるようです。
■ 更地にすることに!
同年8月、相続人の希望で建物を解体し更地にして売る事に決定。
筆者から相続人へ「更地にすれば土地にかかる固定資産税等が高くなるし、解体費用をかけて更地にしたからといって必ずしも売れるとは限らない。空き家付き土地を探している移住者が現れるかも?!」と説得はしましたが、相続人からは「建物が無いほうが売れやすい」「いつ売れるかわからない状況で、建物の管理、土地の管理をずっとやらないといけないのは大変だ。」との強い希望があり、建物を解体することになりました。
同年9月、筆者の母(相続人:長女)と筆者の父で空き家内を整理。
まだ使えるもの(システムキッチン、お風呂、家具、家電等)は、近所の方に声掛けをして希望者に無償で譲り渡しをし残ったものは廃棄物として処分。筆者の父が自ら足しげくリサイクルセンターや処分場に廃棄物を持ち込み節約。また、筆者の父(元建設業関係者)が、その友人(建設業者)に解体工事を依頼し同年11月、建物の解体が終了しました。
建物の解体にかかった費用は見積り額230万円を大幅に下回る150万円程で済みました。(ただし、筆者の両親の人件費は考慮しておりません。)
建物を解体した場合は、法務局への手続きが必要です。これを「建物滅失登記(たてものめっしつとうき)」と言います。
今回は、筆者の母(相続人:長女)が所有者代表として法務局へ出向き、建物滅失登記申請を行いました。(下記、「登記完了証」参照)
建物が無いと「空き家バンク」には登録できないため、空き家バンクの登録も抹消することになりました。
《ワンポイント☝建物滅失登記》
建物を取り壊したらその建物の所有者は、建物を解体した日から1月以内に建物を解体したことを記録する登記を行う必要があります。
申請期間が短く、罰則(10万円以下の過料)も定められているため注意が必要です。
また建物滅失登記を行わないままでいると、建物の固定資産税がかかり、また不動産の売買取引や建物を新築する際にも支障が出るため必ず期限内に行いましょう。
自分で申請ができない場合は、専門家:土地家屋調査士に依頼することもできます。
祖父母との想い出のある家があり両親がたくさんの野菜を育てている畑があった頃は、筆者は帰省する度に何度も行っていた場所でしたが、想い出の家がなくなり更地になるともう「行こう」とはならないのだなと気づいて、とても寂しい気持ちになりました。
きっと足しげく通って野菜を育てていた筆者の母(相続人:長女)には、もっと複雑な想いがあると思います。
■ 現在【2025年4月10日】結果報告!
2023年10月に不動産業者に売却依頼 をしてから18カ月経ちましたが、当 不動産はまだ売れておらず、問い合 わせ件数もわずか3件しかありません でした。
この3件をまとめてみると・・・
・①件目: 移住希望者(子育て世代)→ 広すぎる
・②件目: 介護事業者 → エリア的に採算が取れない
・③件目: 農業を始めたい男性 → 住宅ローン審査にあたり、広い農地にローンが使えないことで購入できず
不動産業者に任せきりにせず、自分自 身も積極的に動いてきましたが、残念 ながら売却には至りませんでした。
■ 田舎の農地つき空き家売却から学んだこと
【結論①:やっぱり田舎の不動産売却は、甘くない!】
地方では不動産が過剰供給のため、希望価格での売却は至難の業です。
今回の事例ではその他に、広い土地、農地を含む土地といった複数の問題が混在し、さらに売却が困難になってしまいました。
ただ、「田舎で、農地のある古民家を買いたい。」という需要はありました。様々な不動産があるように、買主が求める不動産もまた様々です。
今後も地道に購入希望者を探していきたいと思っています。
【結論②:相続税が必要なケースだったら、もっと困っていたかも!】
今回のケースは「相続税」がかからない案件だったため、相続税の申告・納税期限を意識する必要はありませんでした。
しかし、相続税を納める必要がある場合には、相続開始から10月以内に相続税の申告を済ませ、相続税を納める必要があります。
相続した不動産を売却できず、その相続税分の現金を準備できないまま納税が遅れた結果、延滞税が加算され、さらに税金の負担額が増える可能性があります。
ですから、相続税がかかりそうな方、相続財産に売却するのが難しそうな不動産をお持ちの方は、早めの準備や対策が重要だと感じました。
【結論③:不動産の相続には準備が大切!】
不動産を相続したよ。で、どうしたらいいの?となる前に!
相続発生「前」の準備でスムーズな売却へ
相続後、空き屋となったまま放置していると、こんなデメリットがー…
デメリット❶:空き家となることで建物の劣化が進み、価値がどんどん下がる
デメリット❷:不動産の管理や雑草の手入れなどの管理・維持費、固定資産税がかかる
デメリット❸:相続税の納税期限までに納税できないと延滞税が加算され、最終的な負担が増える可能性がある
上記デメリットを回避するためにも、ぜひ相続発生前からご家族間で「今後、不動産をどうするか?」を話題にして、相続する側、相続される側のお互いの希望を伝えあっておくことをオススメします。
①不動産の相場価格は?
②本当に売れそうか?
③正しく登記されているのか?
④農地を宅地などに転用できるのか?
- など、
- 下調べをしておく事で不動産の活用方法、相続の方法を決めるために役立ちます。
そして、相続する側、相続される側の間で誰が何を引き継ぐのかが決まれば、ぜひ遺言書を作成してください。
そうすることで相続が発生した時に、かかる手間と時間を大きく削減することができます。
遺言書には数種類ありますが、筆者は「作る時はちょっと大変ですが、いざ使う時には相続手続きが楽チンな『公正証書遺言』」をオススメしています。
《ワンポイント☝実家の断捨離》
今回は建物の解体前の片付けや建物の解体は、近くに住んでいる親族を中心にして行う事ができました。
近年は実家から相続人が遠くに住んでいる場合も多く、筆者も仕事柄、実家の片付けで困っている方や亡くなった方の荷物が多くて遺族の方が大変な思いをしていたり、自分達ではできないからと遺品整理を依頼して悪徳業者に騙されるケースも目にしてきました。
終活の1つとして生前に自分自身で自分の物を整理ができれば、それに越したことはありませんね。
また、年末年始やお盆などご実家に帰省する際は、ぜひご実家の断捨離を一緒にやってみてください。
想い出の品物がご家族の絆を深めるキッカケにもなると思います。
ただし、親御さんが片付けを嫌がっている場合は無理強いは禁物です。
まずは、親御さんの貴重品の置き場を確認したり、想い出の品物の話を聞くところからはじめてみてください。
■ 不要な相続土地を処分できる「選択肢」は増えている
今回の案件では、相続人が希望していませんので、選択肢にはなりませんが、「手数料を支払ってでも、不要な相続土地を処分したい!」という方の「選択肢」は増えています。
●「相続土地国庫帰属制度」について
農地を含め相続した土地について、国に引き取ってもらう制度「相続土地国庫帰属制度」が令和5年(2023年)4月27日から創設されました。
ただし、どのような土地も無制限に国に引き取ってもらえるわけではなく、一定の要件を満たしている土地であることや【負担金の納付】が必要です。
- ※ 相続土地国庫帰属制度について 詳細や最新の情報については、専門家や所轄の法務局にご相談ください。
- https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
- (出典:法務省 民事局)
●「民間会社の不動産の引き取りサービス」について
不動産会社や有償の引き取り業者が、土地や建物を引き取るサービスがあります。
引き取り業者の中には悪徳業者も存在するため、業者選定は重要です。
●「自治体等への寄付」について
実施されたケースはまだ少ないようですが、自治体への寄付も検討の価値があります。
ただし、自治体がすべての土地を無条件で受け入れるわけではなく各自治体で受け入れ条件や手続きが異なります。
- そのため具体的な手続きや条件については、寄付を希望する自治体の担当窓口に事前に相談することが重要です。
- https://www.mlit.go.jp/common/001135613.pdf
- ( 出典:国土交通省:土地政策の変遷と役割 -図52:土地の寄付を受入れることについての地方自治体の考え方 )
■円満な相続を迎えるために
今回の事例はまだ未完ですが、農地を含む田舎の空き家の売却の難しさ、地域性による価格決定の難しさ、生前準備の重要性を再確認することができました。
筆者は「相続人同士の意見の相違」により相続手続きが進まない案件も数多く目にしてきました。
相続後の相続人の手間や出費を抑え心穏やかに笑顔で相続をしていただくために、事前の準備にまさる対策はありません。
今回のコラムが同じ問題に直面する方々の参考になり、少しでもスムーズで円満な相続のお役に立てば幸いです。
中島美春(なかしま みはる)
笑顔相続サロン®福岡 代表
- 九州・福岡で、あなたの「困った」を「相談してよかった」に変える行政書士・相続コンサルタント。
- 急逝したお一人様の相続手続きをきっかけにして、遺言書のみならず想いを残すエンディングノートの普及にも力を入れている。
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