実は、筆者の母もこの問題に直面しました。このコラムでは、筆者の祖父母宅を相続した相続人等の事例で、売却までのプロセスを時系列で説明し、売却開始までに大きな手間と時間をかけることになった「思わぬ大問題」や、田舎の【農地付き「空き家」】の売却の実情についてご紹介します。
このコラムに登場する物件は、築56年の古家付き約600坪の土地です。土地には「宅地」だけではなく「畑」(農地)も含まれています。古家の前に広がる畑は、近所に住んでいる筆者の母(相続人:長女)と父が野菜を作ったり、雑草取りをして管理しています。このエリアは「売物件」の看板が多く目につき、駅やスーパー、病院などからも遠い住宅地であるため、車がないと生活には不便な場所です。果たして、この物件は売れるのでしょうか?!
1. 相続が発生
令和元年:祖父が亡くなる
令和4年:祖母が亡くなり、相続人である子3名:長男、長女(筆者の母)、次男が、古家と土地(以下「不動産」という。)を、それぞれ「3分の1ずつ」相続した
2. 相続した不動産の売却を決めるも、現状確認の中で問題点が見つかる
令和5年:祖母の一周忌後、相続人3名は相続した不動産を売却することを決め、筆者が親族3名の代理人として売却に向けたサポートをすることになった
令和5年7月13日:相続人3名から、委任状、印鑑証明書、本人確認書類のコピーを預り、筆者が親族3名の代理人として、不動産売買コンサルティングを専門にするWeekend株式会社の増﨑社長と契約(増﨑社長は相続診断士資格もあり)
令和5年7月21日:増﨑社長が、全部事項証明書(登記簿謄本)では確認できるが、公図には載っていない「土地」(畑)17㎡(以下「当該農地」という。)を確認
実はこれが「思わぬ大問題」だったのです。
なぜなら「売却の前提条件」として、以下の条件があるため、公図に載っていない「土地」(畑)が含まれているままでは、売却ができないからです。
<売却の前提条件>
①農地の売却には農業委員会の許可が必要
②農業委員会は当該農地の場所が特定できないと許可申請を受理できない
当該農地についての詳細は以下のとおり
✅土地の全部事項証明書(登記簿謄本)は存在するが、公図上には載っていなかった
✅土地家屋課税明細書には載っているが、その評価額欄は「現地不明確(畑)」となっていた
✅公図上で確認できる他の土地から、当該農地が分筆された記載はなかった✅土地の閉鎖事項全部証明書も取り寄せたが、当該農地を確認できる情報は載っていなかった
✅増﨑社長に、法務局や農業委員会と協議をしてもらったが
「確定測量をするしかないでしょうね」と言われたとの事であった
⇒わずか17㎡の為に「確定測量(※)」をするのは費用の負担が大きく避けたい
※確定測量とは、土地家屋調査士が行うもので、全ての隣接地との境界について隣接する土地の所有者立ち会いのもと、正確な面積を測り境界を確定させる作業のこと
3.「公図」以前の地図である「和紙公図」の存在を知る
令和5年7月21日:増﨑社長に「和紙公図」を取り寄せてもらう
増﨑社長から、法務局や農業委員会に確認してもらう中で、「公図」以前の地図で「和紙公図」と呼ばれるものがあり、その「和紙公図」に当該農地を特定出来る情報が載っていることが判明した。これを取り寄せてもらい確認すると、古めかしい地図にて、当該農地の地番が確認できた。これにより、隣接している道路と一体化した可能性もあるか?と推測されたが、確証には至らなかった。
取り寄せた「和紙公図」がこちらです。
4.土地家屋調査士に相談
令和5年8月17日:相続診断士資格を持つ土地家屋調査士の山本幸伸先生に相談し、当該農地について、古い土地台帳と、閉鎖事項全部証明書、前述の「和紙公図」等を読み解いてもらうことにした。
令和5年9月14日:山本幸伸先生から、A市役所 農村整備課 地籍管理担当へ問い合わせをしてもらい「当該農地は、道路に含まれていると判明した。」との連絡が入った。
さて、ここで、山本幸伸先生が報告書として筆者に送られた資料を掲載します(一部抜粋)。前述では簡単に書いていますが、実際には、「和紙公図」の地図を含む古い資料をもとに、事実を読み取り、それを時系列に整理をして表にまとめた報告書になっていました。(山本幸伸先生ご本人に、掲載の了承をいただいています)
ー【調査結果報告書より引用】ー
当該農地は、道路に含まれていると判明した
対応策としては、以下のとおり
【対応策 第1案】
法務局に相談して、当該農地の登記簿を閉鎖してもらえないかを相談する(職権で登記)
【対応策 第2案】
A市に寄付ができないかを相談する
【対応策 第3案】
道路になっていることが確認できたので、現状のままとする
ー【引用ここまで】ー
まずは【対応策 第1案】に挑戦してみました。
法務局より「登記官の職権を使えるのは、明らかに建っているもの、あるものを登記することがほとんどで、今回のように「ないもの」を「ない」と登記をすることはできない。」との回答を得たため断念しました。
【対応策 第1案】ができず、がっかりしていたところ、並行して不動産コンサルタント増﨑社長からA市に【対応策 第2案】「A市に寄付できないか」を相談してもらい、A市より「土地の寄付を受け付けるのは初めてのことですが、色々と調べた結果、土地を寄付をしていただけそうなので、寄付の登記に必要な必要書類を案内しますので送ってください。」との回答が来たとの連絡をうけました。この旨を、筆者から相続人へ伝え、相続人全員で話し合いをしてもらった結果、当該農地をA市に寄付することになりました。
令和5年9月14日:当該農地をA市へ寄付することになった
《土地の寄付に必要な書類》
①登記原因証明情報兼登記承諾書(相続人3名分)
②寄附書(相続人3名分)
③印鑑証明書(相続人3名分)
令和5年9月22日:筆者よりA市へ、相続人3名分の寄付の登記申請書類等をとりまとめて送付
令和5年9月27日:A市より、寄付の登記が完了したとの連絡あり
寄付の登記が完了した後の「全部事項証明書」がこちらです。
5.売却にむけて動き出す
令和5年10月2日:ようやく相続した不動産の売却に進めることになった
以上が、田舎の【農地付き「空き家」約600坪】は、売れるのか?!(前編:「売るための準備」編)でした。
後編は「売却編」として、「空き家バンク」活用の実情や、不動産コンサルタント増﨑社長とのやりとり、問い合わせが何件来たか、果たして売れたのか?!などを赤裸々にご紹介します。
最後に、今回のケースでは相続業務の専門家である筆者ですら「売却」のスタートラインに立つまでに3月もの時間がかかってしまいました。相続に慣れてない方がやるとなれば、さらに時間や労力が必要となると思います。
今回は、筆者自身も、古い資料を読み解ける土地家屋調査士さんの凄さや、専門家のスピード感を体感できた事例でした。山本先生、不動産コンサルタントの増﨑社長、ありがとうございました。
相続でお困りの時は相続診断士「相続の専門家」へのご相談が、解決への近道です。ぜひ、お気軽にご相談ください(*^^*)
【今回の事例でお世話になった相続診断士(敬称略)】
法務大臣認定 土地家屋調査士・相続診断士
山本土地家屋調査測量事務所
代表 山本幸伸
(社)福岡県宅地建物取引業協会会員・相続診断士
IREM JAPAN(全米不動産管理協会日本支部)会員
Weekend株式会社
Park Estate | パークエステート
代表取締役 増﨑慶太
中島 美春(なかしま みはる)
笑顔相続サロン®福岡 代表
九州・福岡で、あなたの「困った」を「相談してよかった」に変える行政書士・相続コンサルタントとして活動中。縁ディングノートプランナー認定講師としてエンディングノートの普及にも力を入れている。
多くの方に「生前準備」の大切さを伝えるために、Youtubeチャンネル「元気がでる相続⭐️終活チャンネル」を運営中。
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