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田舎の【農地付き「空き家」約600坪】は、売れるのか?!(中編:「売却奮闘」編)

公開日:2025-01-27 00:00

目次

■ 前編のあらすじ(ざっくり おさらい)

  • 1. 祖父母の遺産「農地付き空き家」の相続が発生
  • 2. いざ売却しよう!としたら、登記簿と現況が違うため売却ができない!
  • 3. 調査の結果、畑がA市の道路の一部になっていた!
  • 4. 問題のあった畑部分をA市に寄付し、登記簿と現況とを一致させることに成功!
  • 5. さぁ、売るぞ!

前編の詳しい内容は☛こちら☚でご確認ください。

中編では【「売却奮闘」編】として、筆者が行った売却のための試行錯誤とその結果をご報告していきます。


1) どのくらいの田舎なのか?

まず、このコラムに登場する物件は、九州・宮崎県のA市にあります。

A市内の住宅地の地価相場は平均1.7万円/㎡程度です。

宮崎市内の平均的な住宅地の地下相場が、平均4.8万円/㎡程度とお伝えするとイメージしていただきやすいかと思います。

(出典:A市公式WEBサイト、宮崎県令和6年地価調査、国土交通省平成30年地価公示より)

さらに、物件があるエリアは、

そのA市の中でも「売物件」の看板が多く目につき、

駅やスーパー・病院などからも遠い住宅地であるため、車がないと生活には不便な場所です。

農地相続


2) 不動産を相続する準備はできていたのか?

家父長制度の時代を生きた祖父は、福岡県に住む長男か、京都府に住む次男のどちらかが、

将来的には、A市に戻って来て「家」を引き継ぐものだと、当然のように思っていました(下記、親族関係図参照)。

そんな父に対して息子達は「不動産を引き継ぐつもりはないこと」を伝えることができず

生前にこの家をどうするか?」について家族間で話し合いをしたことはありませんでした。

家系図


3) 幸いだったこと

相続人である3人のきょうだいの仲が良く売却することについても全員が賛成だったことと、売却に向けて揉めることがなかったことは本当に幸いでした。


4) 難しかったこと

相続人の売却希望価格が相場より高かったことです。

売却希望価格は、近所の不動産売却実績事例である坪単価2万円を基準に(2万円×600坪)=1,200万円と、相続人が決定しました。

筆者としては、その価格での売却は厳しいだろうと考えましたが、相続人全員が納得して決めたことですので口出しはせずに、まずは見守ることにしました。


■ まずは不動産業者と契約!

まず、2023年10月に不動産業者に相続人の希望額である1,200万円で売却を依頼しました。

不動産業者に依頼すると、不動産流通ポータルサイト(レインズ、ふれんず、不動産ジャパン)への掲載など、

不動産の情報を広く発信することができるようになります。


■ 不動産業者から値下げの提案。その「まさか」の理由

同年11月、不動産業者から「1,200万円の価格では厳しいです。600坪と広すぎるのが良くないようですね。

市場的に300坪を超えると、買う側が『管理・維持費がたくさん必要だな…』と心配になるようで

その分、割安な価格設定でないと売れにくくなるんです。」と、980万円への値下げを提案されました。

まさか「広い」ということがデメリットになるなんて想像すらしませんでした。

筆者は相続人に不動産業者の提案を伝えましたが、相続人は「想い出がつまった実家を値下げをしてまで急いで売る必要はない。」という意向が強く、

値下げには応じませんでした。


■ チャンスを広げよう!と、A市「空き家バンク」にも登録

同年12月、筆者が代行しA市の「空き家バンク」へ登録申請を行いました。

《ワンポイント☝「空き家バンク」とは》

  • 「空き家バンク」は営利目的のサービスではなく、自治体が運営しているため登録や物件情報の掲載は、一般的に無料で利用できます。
  • 自治体は仲介行為を行わないため仲介手数料は無料ですが、物件所有者と利用希望者間で直接交渉を行う不動産業者等に仲介を依頼する必要があり、
  • この場合は仲介手数料が必要になります。契約手続きや条件交渉など不動産取引の知識がない場合は不安を感じるかもしれません。


■「分譲宅地として買ってもらえる?」建設業者の答えは・・・

「空き家バンク」の登録と同時に分譲宅地としての売却ができないかを不動産業者よりA市の建設業者に打診してもらいました。

建設業者からは、

  • 「600坪の広さがあると開発行為に該当する(※1)ため、開発許可申請のコストも時間もかかる。
  •  分譲地内に道路も必要になるので販売できるのは実質500坪程度になる。
  •  既存住宅の解体費用も加わるし需要が多いエリアではないから期待されている価格では買い取れない。」

と断られてしまいました。

《ポイント☝開発行為》
(※1)「600坪は開発行為に該当する」とは、都市計画法に基づく「開発許可」のことで宅地造成などの開発行為を行う際に必要となります。

申請が不要な土地もありますが、今回は申請が必要となるエリアでした。

 

■ やれることはやった! 3月間の結果は?

各種サイト掲載後3月間での問い合わせ件数は2件だけでした。

問い合わせの少なさから「この不動産の売却は思っていた以上に難しい…」という実感が湧いてきました。

問い合わせ①:

関東からの移住希望者(子育て世代) → 「広すぎて管理が大変…」と売買契約に至らず。土地が600坪と広すぎることがネックに!

問い合わせ②:

県外の介護事業者 → 「このエリアでは採算が取れない…」と売買契約には至らず。田舎であることがネックに!

宅地建物取引士として不動産業者で働いていたこともある筆者。

わかってはいた事ですが、「不動産業者に依頼すれば、必ず売れる!」というわけではありませんでした。


■「空き家バンク」担当者が予想する「売れる可能性のある価格」は?

2024年1月、筆者から「空き家バンク」担当者へサイトのアクセス数を確認したところ

「アクセス数は249件ありましたが、電話での問い合わせは0件でした。」との回答でした。

「1,200万円という価格について、どう思われますか?」と聞いたところ、

「正直、高いと思います。探している人は1,000万円を超えている時点でまず物件の詳細を見ないんです。

900万円台に価格を下げたほうが、まず、アクセス数が増えるので売却の可能性は上がると思います。

1,200万円→980万円に下げることを検討されてみてはいかがでしょうか?」

というアドバイスをもらいました。さらに、

「A市内は、あちらこちら”売地”の看板だらけです。A市の中心地にある空き家ですら”売れない”というのが現実です。

980万円への値下げをご検討いただけたらと思います。」

という担当者の言葉はうなずけるものでした。

不動産業者からの提案価格も同じく980万円だった事もあり、980万円が「売れる可能性のある金額」なのだろうと思いました。

 

■ 空き家を解体するなら、費用は230万円!?

同時進行で、空き家解体費用の見積もりを取ったところ「安く見積もって230万円」との回答がありました。

空き家を解体する場合、土地が1,200万円で売却できても実質970万円で売却するのと同じ(1,200万円230万円=970万円)になるわけですから、

「空き家付き」(建物を解体する際の費用は買主が負担)を条件にすれば、

不動産業者や「空き家バンク」担当者の勧める売却価格980万円も納得できる価格だと思えました。

そこで相続人にこの状況を伝えましたが、依然として相続人は「値下げをしてまで、急いで売る必要はない。」とのことで値下げには応じませんでした。

 

■ アクセス数は減るばかり…時間だけが過ぎていく…

同年2月のアクセス数は127件に激減。電話での問い合わせは0件でした。

 

とうとう価格1,200万円➔980万円に値下げ!

 相続人と相談し、2024年2月、売却価格 1,200万円 ⇒980万円への値下げを実行しました。

 

■「空き家バンク」担当者が指摘する新たな「売却の壁」とは?

2024年4月、「空き家バンク」にアクセス数を問い合わせしました。

価格を900万円台に下げたにもかかわらず、3月のアクセス数は143件と2月の127件から大きな増加はなく、電話での問い合わせも相変わらず0件でした。

「空き家バンク」の担当者からは、「今、引き合いがある物件は、価格帯が500万円前後のものが多いです」という

価格に関する情報の他「農地付きのため、農業委員会の許可申請も必要になるので購入者にとっては、

その面でもハードルが高いのかもしれません。」という話がありました。

ここへ来て価格だけでなく「農地がついている不動産」の売却の難しさも突きつけられてしまいました。

 《ワンポイント☝農地法》

農地は国民の食料や資源を確保するため、国の定める「農地法」によって守られています。

たとえば、農地の売却には「農地として売却する方法」と「農地転用をしてから売却する方法」があります。農地を農地のまま売却する場合は農業を営む意思がある方しか購入することができません。一方、農地から宅地等に「農地転用」をすれば農業を営んでいない一般の方も購入することができるので、「農地転用」をして売却したいと思われる方も多くいますがその場合は、農業委員会の許可や届出が必要となり時間と手間がかかってしまいます。さらに「農地の区分」(※2)によっては、転用できない場合もあるのです。

農地の売買や所有している土地の「農地転用」をする場合は、所有している「農地の区分」を確認し農地法はもちろんのこと、その地域の規制、農業や農地の状況についても事前に確認することが重要です。このように農地は、一般的な不動産のように売買ができないということもあり、買い手が見つかりにくい傾向にあるのです。

相続して「いざ、売却しよう」と決めたとたんに

  •     登記簿と異なる
  •     広すぎる
  •     希望額が高すぎる
  •     農地法があるため購入してもらうのが難しい

 

といった問題が鮮明になったこの物件。「このまま売れないのかな?」と思っていた矢先に、急展開がありました!

展開!内覧&申し込み!しかし住宅ローンでまさかの・・・後編へ続きます!


以上が、田舎の【農地付き「空き家」約600坪】は、売れるのか?!(中編:「売却奮闘」編)でした。

 

この続きは(後編:「地方の《相続不動産》売却から見えたこと」編)としてお届けします。

最後に、宅地建物取引士として福岡の不動産業で働いていた経験のある筆者ですが、

今回のような地方の不動産売却では戸惑うことが多く「相続する不動産によっても相続人の苦労は千差万別。

同じ相続は1つも無いとは良く言ったものだなぁ。」と改めて実感しています。

もし、相続について少しでも不安なことがあれば、遠慮なく専門家に相談をしていただきたいと思います。

もし適切な専門家が見つからない場合は相続診断士「相続の専門家」へのご相談が、解決への近道です。ぜひ、お気軽にご相談ください(*^^*)

★後編は▶こちら◀クリック★


【筆者プロフィール】

中島 美春(なかしま みはる)

笑顔相続サロン®福岡 代表

  • 九州・福岡で、あなたの「困った」を「相談してよかった」に変える行政書士・相続コンサルタント。
  • 急逝したお一人様の相続手続きをきっかけにして、遺言書のみならず想いを残すエンディングノートの普及にも力を入れている。

  • 多くの方に「生前準備」の大切さを伝えるために、Youtubeチャンネル「元気がでる相続⭐️終活チャンネル」を運営中です!
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