高齢者を守る終活契約の視点:身元保証と死因贈与の法的リスクと実務対策
公開日:2025-05-26 00:00
目次
■ 高齢者を囲い込む悪徳ビジネス増加の現状
高齢化と単身高齢者の増加に伴い、高齢者の身元保証や終身サポート事業が急拡大しています。
しかし、法規制の遅れにつけ込み、悪質な業者が乱立して高齢者を食い物にする実態が報じられています。
典型的なのは、契約書に「すべての財産を遺贈する」等の文言を盛り込み、高齢者に自らの遺産を事業者に贈与するように仕向けるケースです。
スーツ姿の職員が「では、こちらにサインをお願いします」と高齢者に契約書へ署名させ、後からその書面を確認すると「全財産を事業者に遺贈する」との条項が潜んでいた、といった具体例が報じられています。
こうした契約は高齢者本人に十分な説明がないまま締結される場合が多く、高齢者を囲い込む悪徳ビジネスだとして社会問題化しています。
昨年、身元保証会社のサービス水準を解説しましたが(https://egao-souzoku.hanamaru-syukatsu.com/20240311)、本稿では現場で深刻化している問題をさらに掘り下げます。
■ 10年で4倍!急増する相談件数と、典型的な被害のパターン
高齢者の身元保証サービスを巡る消費生活相談はこの10年で約4倍に増加しました。
高齢者の単身世帯増加で需要拡大の一方で、不適切な契約によるトラブルが増えていることも示しています。
相談内容を大きく分類すると、次の4つのパターンがあります。
(1)
不明瞭かつ高額な契約
契約者がサービス内容や費用を十分理解しないまま、契約金100万~200万円に及ぶ高額契約を結ばされる。
契約時の重要事項の説明が不十分で、「思ったより費用が高かった」「契約内容がよくわからない」といった相談が多発しています。
(2)
サービス未履行
契約に含まれているはずの見守り・付き添い等のサービスが提供されない。
例えば、「定期的な安否確認込み」で高額な契約金を支払ったのに、1年経っても安否確認の連絡が来なかった。
「忙しい」等の理由で病院送迎など契約上のサービスを怠るなど。
(3)
解約・返金トラブル
一度契約すると解約が困難で、預託金や入会金が返金されない。
契約をやめたいと申出たものの預けたお金が戻らない、あるいは事業者から一方的に一部だけ返金され残額を差し引かれた、といった相談が相次いでいます。
(4)
遺贈寄付や死因贈与の強要
知らぬ間に、「業者に財産を渡してしまった」「遺言書に寄付条項が入っていた」等、利用者の財産処分を巡る深刻な相談も出ています。
老後資金を切り詰めるほど、事業者が受け取る遺産が増えるという点で、利害関係が対立する構造が作られてしまいます。
■ 愛知県の事例に学ぶ、死因贈与の強要の実態
こういった問題点が法廷で明らかになったのが、名古屋地方裁判所岡崎支部が令和3年に出した判決です。
原告は高齢者・障害者向けの家族代行サービスを運営しているNPO法人、被告は地元の信用金庫でした。
NPO法人は、身寄りのない入所者と身元保証契約を結び、同時に、不動産を除く全財産について死因贈与契約を締結。
信用金庫に預金の支払いを求めて提訴しました。
裁判の争点は、この死因贈与契約が公序良俗(民90)に違反し、無効となるか否かでした。
裁判所は、以下のような諸問題を指摘し、NPO法人と顧客との間で交わされた死因贈与契約は無効であり、信用金庫は預金の支払い義務を負わないと判断しました。
(1)
一体化された契約
「保証人を付けないと退所になるかもしれない」と不安をあおり、身寄りのない入所者であることを理由に、①身元保証契約を結ぶ際に、同時に、②死因贈与契約(亡くなったら預貯金をすべて業者に渡す約束)まで一体的に契約を結ばせた。
(2) 施設と業者の「癒着」
社会福祉協議会が運営する施設とNPO法人が密接に結び付き、入所者の半数以上が同じ契約を締結していた。
(3) 意思確認の不備
死因贈与契約は、公正証書ではなく、私文書(事業者が作成した雛型の文書)で締結。
説明がほとんどなく、利用者が内容を理解しないまま署名させられていた。
(4)
不当な利益の取得
実際の葬儀費用は約50万円程度で済むところを、身元保証料として90万円を受け取り、さらに預貯金約620万円を自らのものにしようとしていました。
他にも別の高齢者から同様に財産を取得し、年間1,000万円以上の寄付金収入を得るなど、事業目的が遺贈金の獲得に偏っていました。
■ 業界団体の設立と社会的批判の論調
身元保証サービス業界では、自主的な適正化の動きも出ています。
今年に入って、有志の事業者が集まり、国内初の業界団体設立に向けた準備委員会が発足しました。
秋頃までに「全国高齢者等終身サポート事業者協会」という法人格の団体を設立し、入会要件の設定や優良業者を選びやすくする仕組み作りを進める計画を公表しています。
一方で、世論やメディアの論調は厳しく、「身寄りのない高齢者を食い物にするビジネス」への批判が強まっています。
「悪徳」「食い物」などの刺激的な見出しで、行政や業界の対応を促す論調となっています。
■ 高齢者の最後を支える「本物の終活ビジネス」を探して
高齢者が安心して最期を迎えるためには、単なる「死後事務代行」や「全財産の遺贈」を前提とするビジネスではなく、利用者の意思と必要性に寄り添った契約設計が不可欠です。
相続コンサルタントや士業は、高い倫理観を持って、身元保証や死後事務委任契約など、多様な手段から最適解を提案していく責任を担っています。
読者の皆さまもぜひ、ご家族と契約内容をしっかり確認し、不明点は専門家に相談する一歩を踏み出してください。
【筆者プロフィール】
大石 誠(おおいし まこと)
- 弁護士(神奈川県弁護士会所属)
- 笑顔相続道®正会員
- 縁ディングノートプランナー™
「相続とおひとりさま安心の弁護士」
- 平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
- 横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。
- 遺言、家族信託、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応しています。
今秋、笑顔相続コンサルティング株式会社、シニアライフ相談サロンめーぷるの共同主催で、おひとりさまの増加と多死社会に対応する専門家の育成を目指す「おひとりさま相続大学」を開講します。
定員枠に限りがありますので、ぜひお早めにお申し込みください。
https://pro.form-mailer.jp/lp/664dcf41327606
【筆者へのお問い合わせ先】
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