公正証書遺言は“家でつくる時代”へ?――デジタル化で広がる可能性と、今まだ知っておきたい現実
公開日:2026-04-06 00:00
目次
■公正証書遺言のデジタル化が始まりました
昨年、2025年10月1日から、公正証書の作成に関する手続のデジタル化が始まりました。
法務省は、これまで書面と対面を前提としていた公正証書の手続について、
嘱託、本人確認、内容確認、公正証書原本の作成・保存、正本・謄抄本の交付といった一連の流れを、デジタル対応できる仕組みに改めています。
対象には遺言公正証書も含まれます。
■“便利になった”だけじゃない、デジタル化の本当の意味
特に高齢者や、身体の事情で外出が難しい方にとっては、公証役場まで足を運ぶ負担そのものが、公正証書遺言を作る高いハードルになってきました。
そこに対して、制度面から道を開こうとしたのが、今回のデジタル化です。
公証人による本人確認や意思確認の方法が見直され、これまでの“紙・押印・出頭”一辺倒ではない運用が可能になったことには、大きな意味があります。
■誤解に注意!まだ「どこでも・すぐに」ではない現実
もっとも、ここで誤解してはいけないのは、
「もう全国どこでも、誰でも、すぐに自宅から遺言公正証書が作れるようになった」という段階ではないことです。
法務省は制度のデジタル化を打ち出していますが、現場では準備状況や運用開始時期に差が見られます。
実際に、府中公証役場では「一部の公正証書を除き、10月20日から公正証書のデジタル化が開始」と案内しており、施行日と同時に一律で完全対応というわけではなかったことがうかがえます。
こうした点からみても、2026年3月時点では、まだ「制度は始まったが、現場は手探り」という理解が実態に近いでしょう。
■何が変わる?“公証役場に行くもの”という常識の変化
では、何が変わるのでしょうか。
一般の方にとって一番大きいのは、
「公正証書遺言は、公証役場へ行かなければ作れないもの」という固定観念が少しずつ変わり始めたことです。
日本公証人連合会の各公証役場サイトでも、
2025年10月1日から電子化がスタートしたこと、対面方式に加えてリモート方式による電子公正証書作成手順が案内されていることが確認できます。
(※下記、参照)

日本公証人連合会・各公証役場サイト(芝公証役場ほか)
「令和7年10月1日、公正証書の電子化がスタート」
https://www.kosyonin.jp/shiba/
つまり制度としては、
映像と音声を用いた関与を前提とする運用の方向がはっきり示されたということです。
■遺言作成のハードルはどう下がるのか
これは、今後の相続実務において非常に重要です。
たとえば、
ひとり暮らしの高齢者、施設入所中の方、遠方に住む家族と調整が必要な方などにとって、移動負担の軽減はそのまま「遺言を残す行動への第一歩」になります。
遺言の必要性は理解していても、体力的・心理的負担から先送りしてしまう方は少なくありません。
その意味で、デジタル化は、遺言公正証書の“法律上の信頼性”を維持しながら、“利用のしやすさ”を高める改革だといえます。
■デジタル化でも残る課題と注意点
ただし、実務上は慎重に見ておくべき点もあります。
・本人確認の方法
・必要書類の準備
・電子証明書等の利用
・証人の関与方法
・どの類型の遺言でどこまでリモート運用が可能か
などは、制度の条文上の整理だけでなく、
各公証役場の運用体制にも左右されます。
法務省も公証人法改正により、印鑑証明書等の書面による本人確認に加え、署名用電子証明書等を用いた方法を制度上位置付けていますが、それを実際にスムーズに使えるかどうかは、利用者側のデジタル環境や支援体制にも関わってきます。
高齢のご本人が一人で完結するのが難しい場面も、当面は少なくないでしょう。
制度が動き始めた今、大切なのは「制度ができた」で終わらせるのではなく、
自分にとって無理のない形で、どう遺言を残すかを考えることです。
■デジタル公正証書遺言を作成するために
公正証書遺言は、相続トラブルを防ぐための有力な方法のひとつです。
これまでは「公証役場に行かなければいけない」というハードルがありましたが、
デジタル化によって、その一歩は少し踏み出しやすくなりました。
一方で、現時点ではすべてがオンラインで完結するわけではなく、
公証役場ごとに対応が異なるのが実情です。
だからこそ、希望があります。
制度が動き始めた今、この変化を上手に使えるかどうかで、
遺言作成のハードルは大きく変わっていくはずです。
「いつかやろう」と先送りするのではなく、
まずは自分の場合にどんな方法が取れるのかを確認してみること。
それが、これからの相続準備の第一歩になるのではないでしょうか。
“家にいながら遺言がつくれる時代”は、もう絵空事ではありません。
ただし、まだ「誰にとっても当たり前」になったわけでもありません。
焦らず、けれど先送りしすぎず。
公証役場ごとの対応状況を確認しながら、
無理のない形で一歩ずつ備えていくことが、
これからますます大切になるでしょう。
<参考資料・引用元>
※下記、関連サイトを貼っていますので、クリックしてご参照ください。
・法務省「公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化について」
・法務省民事局「公正証書に係る一連の手続のデジタル化について(令和7年12月)」
・e-Gov法令検索「公証人法」
・府中公証役場「公正証書デジタル化のお知らせ」
【筆者プロフィール】
一橋香織(ひとつばしかおり)
相続コンサルタント
- 株式会社 相続終活ラボ 取締役会長
- おひとりさま相談窓口「ふくろう」本部
- 一般社団法人縁ディングノートプランニング協会 代表理事
- 《経歴》
- 外資系金融機関を経て、ファイナンシャル・プランナーに転身。
- これまで19年で7,000件以上の相続相談の実績。
- 自身の家族で争う相続を経験し、相続の大事なゴールは「縁まんな相続」と実感。
- 「争う相続をなくし、縁まんな相続の実現」を理念とし、日々お客様と対峙している中で節税優位の相続対策ではなく、笑顔で相続が迎えられる相続の実現のための活動を行っている。
- 《メディア出演》
- TBS「Nスタ」「ビビット」
- テレビ朝日「たけしのTVタックル」
- TBSテレビ「バイキングmoreなど)多数。
- 《著書》
- 家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい(PHP)
- 終活・相続の便利帖(日本法令)
- はじめての遺言執行(日本法令)共著 その他、日本法令で共著11冊
- 【筆者への問い合わせ】
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