遺留分侵害額請求権を「知らないまま後悔」しないために~期限と選択肢を解説~
公開日:2026-03-30 00:00
目次
■最近の相続相談事情
相続相談会に臨んでいると、
自筆の遺言書を作成済みの相談者さん、あるいは
これから作成したいと真剣に考えている相談者さんが増えてきたように思います。
その反面、遺言書の作成が広まってきたからでしょうか。
最近、「遺留分侵害額請求をしたい」「請求をされた」という、ご相談も増えてきました。
このような経験をされた方も、あきらめる必要はありません。
法律は、こうした不公平を是正するために、
「遺留分侵害額請求権」という仕組みを用意しています。
もっとも、この権利には期限があります。
期限を過ぎると、正当な権利があっても請求できなくなるおそれがあります。
この記事では、相続後に後悔しないよう、遺留分とは何か、わかりやすく解説します。
■「遺留分」とは?最低限の取り分を法律が保障します
例えば、親は遺言で「全財産を長男に相続させる」と決めることができます。
これは法律上有効です。
しかし、それでは他の子どもは何も相続することができません。
そこで民法は、相続人を守るために「遺留分」という仕組みを用意しました。
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された「最低限の取り分」です。
たとえ遺言で全財産を特定の相続人に相続させると書いていても、配偶者・子・直系尊属には、相続財産の一定割合を受け取る権利があるのです。
この権利を実際に使うのが「遺留分侵害額請求権」です。
■誰が請求できるのか?「兄弟姉妹は対象外」が重要
遺留分侵害額請求権は全ての法定相続人に認められた権利ではありません。
請求できるのは、
①配偶者
②子ども(代襲相続人を含む)
③親・祖父母などの直系尊属
に限られています。
最も重要な注意は、兄弟姉妹には遺留分が無いという点です。
これが法定相続人が兄弟姉妹のみの場合には、
遺留分に気兼ねすることなく遺言書を作成できる理由でもあります。
■「1年の期限」が最も大切。知ったときから数え始めます。
遺留分侵害額請求は、何年経っても請求できるわけではなく、明確に期限があります。
民法1048条では、
遺留分が侵害されている場合、その不足分を請求できる権利は、
「相続が始まったこと」と「侵害されている事実」を知ってから1年以内に行使しないと、時効により請求できなくなります。
また、そのことを知らなかったとしても、
相続が始まってから10年が経つと、その権利は行使できなくなります。
では、この1年間はいつから数えるのでしょうか。
この点は事案によって争いになることがありますが、
少なくとも、相続が開始したことに加え、遺留分を侵害する遺言や贈与があったことを知った時が問題になります。
典型的には、次のような場面が考えられます。
・封印されていない自筆証書遺言の内容を知ったとき
・自筆証書遺言の検認期日で、その内容を知ったとき
・公正証書遺言の写しを受け取ったとき
このような場合に、「そのうち話し合おう」「まだ時間はある」と考えるのは危険です。
■請求してよかった実例と、期限を過ぎた実例
【ケース1】駆け込みで間に合った事例
父が亡くなり、遺言で「全財産を長男に相続させる」と書かれていました。
父の死後、8年経ったときに長女はふと
「そういえば父の相続はどうなったのだろうか?相続登記が義務になったと聞くし・・・」
と気になって、実家の登記簿謄本を取得しました。
すると、長男に名義変更されており、
このときに実は遺言書があったということを知りました。
長女は弁護士に相談し、遺留分侵害額請求権があることを知ります。
父の遺産8,000万円に対し、長女の遺留分は1/4の2,000万円。
内容証明郵便を送って請求した結果、1,800万円の支払いで合意。
「何ももらえない」が「1,800万円を受け取る」に変わりました。
【ケース2】期限を過ぎた事例
母が亡くなり、兄だけに全財産を遺贈する遺言が見つかりました。
妹は「親の遺言だから仕方ない」と思い、3年間何もしませんでした。
そこから更に2年経った時に、
「やはり納得いかない」と思い直し、弁護士に相談をしました。
しかし、すでに「1年の期限」を大きく超えていました。
請求権は失効し、妹は何ももらえることなく終わってしまったのです。
■もし遺留分が侵害されていたら今すぐやること
「不公平だ」と感じたら、以下の行動を今すぐ始めてください。
(1)内容証明郵便で、「遺留分侵害額請求をします」という意思を相手方に送る。期限内に権利行使をしたという証拠になります。
(2)相続財産と評価額を確認する。特に不動産の評価方法で金額が大きく変わります。
(3)交渉がまとまらなければ、家庭裁判所の調停や、地方裁判所での訴訟を検討する
■「笑顔になる相続」のためにできること~遺言設計の大切さ~
遺留分侵害額請求の多くは、
「遺言の書き方が不適切だった」ために起こります。
親の想いは
「長男が事業を継ぐから、事業資産は全て長男へ」
でも、「全財産を長男に」という遺言だけでは、
長女の遺留分は確保されたままです。
結果として、相続が親の想いと異なる形で進み、兄妹間に対立が生まれ、裁判所を巻き込む事態に。
遺言作成時に遺留分に配慮した設計を行うことで、こうした紛争の多くは防げるのです。
「相続は家族の未来への準備」
遺留分の知識と「1年の期限」の認識は、その準備に不可欠な要素です。
【プロフィール】
大石誠(おおいしまこと)
弁護士(神奈川県弁護士会所属)
笑顔相続道®正会員
縁ディングノートプランナー™
「終わらない相続を終わらせる弁護士」
平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
横浜で、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。
相続問題が長引く原因は、多くの場合、「判断の先延ばし」と「正確な情報の不足」です。
あなたの相続を「終わらない悩み」から「終わる安心」へ。
そのために、初期段階での正確な法律助言と、相続人全員が納得できる解決策の設計を心がけています。
現在、遺留分侵害額の簡易計算機や、遺留分に関する詳しい解説記事をホームページに掲載中。
【筆者へのお問い合わせ先】
横浜平和法律事務所
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