カテゴリー検索

遺産分割の方法とその選択基準

公開日:2024-11-18 06:00

目次

■ 相続人同士が同じ遺産を希望したら?


相続相談会を開催していると、しばしば、「相続人同士、お互いに同じ物件の取得を希望しています。相続を希望する財産が競合した場合、どうしたら良いのでしょうか?」といったご質問を受けます。

遺産分割協議の成立を目指して、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをすると、裁判所の調停委員が双方の意見を聴取しながら解決を図ります。

しかし、話し合いがまとまらず、調停が不成立となる場合もあります。この場合、遺産分割調停は、遺産分割審判という手続きに移行し、裁判官が遺産分割の内容を決定することとなります。

そこで、今回の記事では、遺産分割の方法と、家庭裁判所の遺産分割事件において裁判所は何を考慮して、どの選択肢を取るかを紹介します。


■ 4つの遺産分割の方法とその特徴


 1) 民法が定める遺産分割の基準

 民法は、遺産分割の基準について、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と定めています(民法906)。

この条文を踏まえて、家庭裁判所の遺産分割事件では、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割という4つの遺産分割の方法から選択されます。

 

 2) 4つの遺産分割方法とその特徴

 ①現物分割とは、個々の財産の形状や性質を変更することなく取得者を決めるという方法です。預貯金・現金など、割り算して分割しやすい財産については、この方法が用いられることが多いです。

 ②代償分割とは、一部の相続人に、相続分を超える額の財産を取得させるとともに、多くの財産を取得した相続人から他の相続人に対して債務(代償金)を負担させる方法です。例えば、建物のように、資産価値があるにもかかわらず、ケーキのように切って分けることができないような財産に用いられる方法です。他の相続人に対して代償金を支払わせることで、各自の取得額の均衡を図るというものです。

 ③換価分割は、遺産を売却(換価処分)して現金化し、換価した代金を分配するという方法です。相続人全員が現物で取得する希望のない(誰も取得を希望しない)不動産があるような場合に用いられます。

 ④共有分割とは、遺産の全部や一部を相続人全員で共有にする分割方法です。分割後の財産は民法上の「共有」となり、例えば不動産の場合、複数の相続人がその不動産を共有する形になります。共有した財産を将来分割するには「共有物分割請求」という手続きが必要です。注意が必要なのは、共有分割が問題の先送りになる可能性がある点です。例えば、相続人の間で共有した不動産の処分や管理について意見が分かれた場合、将来的に別の裁判(共有物分割事件)になる可能性が高く、かえって紛争が長期化するリスクもあります。

 

 3) 選択の基準と考慮される要素

前項では、遺産分割の4つの方法を紹介しました。

当事者間に争いのない遺産分割協議においては、相続人全員全員の合意があれば、どの遺産分割の方法を用いなければならないといった正解・不正解はありません

しかし、家庭裁判所における遺産分割事件、特に遺産分割審判においては、4つの方法には検討順序の優劣があります

すなわち、①現物分割が原則となり、次に②代償分割が検討され、これが困難な場合には③換価分割が検討され、さらにこれが困難な場合に限って、④共有分割が最後の手段とされています。

具体的には、①現物分割を選択するにあたっては、相続人(取得希望者)の意向やその理由が考慮されます。例えば、相続開始前から建物に居住している相続人には自宅を、農業経営の後継者には農地を、会社の後継者には営業用の財産を取得させる方向で検討をします。

取得の希望が競合したような場合には、その財産を利用する必要性がより高い者に取得させるように調整を試みます

こうして、暫定的に各相続人が取得する財産を仮決めし、相続人間で経済的な価値の分配が公平にならない場合には、現物分割の内容を再考します。

しかし、現物分割が不可能であるとか、あるいは、現物分割をしてしまうと財産の経済的な価値を損なってしまうような場合には、②代償分割による調整を試みます。

ただし、代償金を支払う相続人には、代償金全額を確実に支払えるだけの資力(経済力)があることが求められます。そのため、代償金を支払うだけの資力がない場合や、誰も現物で取得することを希望しない財産については、代償分割ではなく、③換価分割を選択します。

以上のような順序で検討をしてもなお遺産分割の方法を決めることができない、あるいは換価分割を避けるべきだという事案に限っては、④共有分割が選択されます。

 

■ 遺産分割が希望に近い形になるには


遺産分割事件における遺産分割方法とその判断要素について解説してきましたが、どの方法を選択するかは相続財産の内容や相続人同士の関係性に大きく左右されます。

家庭裁判所における遺産分割事件では、手続きが進めば進むほど、経済的な価値を公平に分配することを重視しますので、相続人全員が納得できる結果になるとは限りません

そのため、双方の意見が対立した場合に見込まれる結果を想定しつつ、遺産分割協議においては、相続人同士の意見の一致を目指すことが重要です。


★遺産分割には対象外の遺産があることをご存知ですか?併せてこちらもご一読ください。

「遺産と、非遺産」☚クリック

 

【筆者プロフィール】

大石誠(おおいしまこと)

弁護士(神奈川県弁護士会所属)

笑顔相続道®正会員

縁ディングノートプランナー

「相続とおひとりさま安心の弁護士」

平成元年生まれ 平成28年弁護士登録

横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。

遺言、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応しています。

 

【お問い合わせ先】

横浜市中区日本大通17番地 JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所

電話:045-663-2294

HP:https://www.ooishimakoto-lawyer.com