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「遺産と、非遺産」

公開日:2024-10-10 10:16

目次

1 はじめに

 先日、このようなご相談がありました。

 「故人の死亡退職金は遺産分割の対象ですか?」「未支給年金は相続財産でしょうか?」

 日本の民法(相続)では「包括承継」が原則となっており、相続開始の時に、被相続人の財産に属していたすべての権利義務が相続人に承継されます。

 この「被相続人の財産」に死亡退職金や未支給年金が含まれ、ひいては相続人全員で遺産分割協議をしなければならないのか、というのが冒頭の質問になります。

 一見すると、死亡退職金や未支給年金も相続財産に含まれそうですが、実は、遺産ではなく、遺産分割の対象外となっています。

そこで、今回は、遺産となる財産や、反対に、遺産ではない財産などを紹介する内容となります。

2 遺産分割の対象となる財産(遺産)

 遺産分割の対象となる財産の典型例は、被相続人名義の土地、建物、預貯金、株式、投資信託などです。

 かつて、預貯金は、相続開始と同時に各相続人に当然に相続分に応じて分割されるとされており、遺産分割協議を経ることなく、相続人が自らの法定相続分相当額について、銀行に対して払戻し請求をすることができました。

 ところが、平成28年、平成29年に、預貯金は相続開始と同時に当然に分割される財産(非遺産)ではなく、遺産分割の対象となる財産であるとの最高裁判所の判断が出たことから、現在では、遺産分割の対象となる財産(遺産)として扱われています。

 また、遺産分割協議書の作成をしていると、遺産目録から抜け落ちやすい財産がいくつかあるので、注意が必要です。

 その典型例として挙げられるのが、私道です。例えば被相続人が居住していた戸建てがあると、建物とその敷地に意識が向いてしまい、自宅から公道に出るための私道を失念している場合があります。

 出資金も見落としがちです。被相続人が、信用金庫や農協に銀行口座を開設していた場合、預金残高とは別に、出資金があることが多いです。

3 遺産分割の対象外となる財産(非遺産)

死亡保険金(生命保険)は、保険金受取人として指定された者の固有財産であるとの理由から、遺産分割の対象とはならず、遺産に該当しません。

同様に、死亡退職金についても、遺族の生活保障の要素が含まれており、企業の退職金規程などを参照しながら、遺族の固有財産であるとされています。

また、年金は後払いがされることから、死亡当時にまだ受け取っていない年金が生じることがあります。この未支給年金については、被相続人と生計を同一にしていた遺族だけに受給権がありますので、やはり、受取人の固有財産であり、遺産に該当しません。

 これらの財産は、相続放棄をしてもその効力に影響することなく、受け取れる性質のものですので、相続放棄をしても受け取れる財産は、遺産分割の対象外である(非遺産)と整理しても良いかと思います。

4 相続人全員の合意があれば遺産分割の対象となる財産

 上記2は遺産に該当する財産を、3は非遺産を紹介しましたが、両者の中間として、原則としては遺産ではないものの例外的に、相続人全員が合意をすれば遺産分割の対象とすることができるという性質の財産もあります。

 典型例としては、被相続人の貸金債権、不法行為に基づく損害賠償請求権、相続開始後の賃料債権などが挙げられます。

 例えば、被相続人が交通事故で死亡した場合や、過重労働による過労死に至った場合など、被相続人の加害者に対する損害賠償請求権が発生し、この損害賠償請求権を相続人が相続したという整理になります。

 被相続人の貸金や、損害賠償請求権などの「可分債権」は、相続開始と同時に法定相続分で分割され、各相続人が確定的に取得します。

 相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割をされますので、相続人の話し合いである遺産分割協議を経るまでもなく、各相続人が取得できるということになります。

 もっとも、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とすることができます。

 

 貸金や損害賠償請求権と性質が異なるのが、相続開始後の賃料です。

 例えば、被相続人が収益物件を所有しており、被相続人死亡後も、賃借人から賃料が振り込まれる場合があります。

 貸金や損害賠償請求権は、生前、被相続人が有していた権利であって、これを相続人が相続したという整理になりますが、これと異なり、相続開始後の賃料は、被相続人の生存中に発生した権利ではありません。そのため、遺産とは別個の財産であるということになります。

 また、遺産分割協議において、賃料を生み出す収益不動産を誰が相続するかを決めていくことになりますが、この遺産分割協議が完了するまでの間は、相続人全員が共有することになりますので、各相続人がその法定相続分に応じて賃料を確定的に取得するという整理がされています(最高裁平成17年9月8日)。

 もっとも、家庭裁判所での遺産分割調停においては、貸金や損害賠償請求権と同様に、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とするという取扱いがされています。

5 おわりに

 「被相続人の財産はすべて相続できるの?」という疑問を持つ方も多いでしょう。

ところが、これまで紹介したとおり、遺産分割の対象となる典型的な財産もあれば、実は相続の対象とならない財産(非遺産)も多く存在します。また、こういった知識がないために、余計にトラブルが悪化してしまうケースも見受けられます。

相続・生前対策でお困りのことがあれば、専門家にご相談いただくことで、スムーズな手続きを進めることができます。

【プロフィール】

大石誠(おおいしまこと)

弁護士(神奈川県弁護士会所属)
笑顔相続道®正会員
縁ディングノートプランナー
「相続とおひとりさま安心の弁護士」

平成元年生まれ 平成28年弁護士登録

横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。

遺言、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応しています。

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