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障害のある方は保険に加入できるのか?

公開日:2025-06-23 00:00

目次

■ 相続対策で生命保険に加入したかったが…

先日、筆者のもとへ税理士からお客様のご紹介がありました。

60歳の男性(Aさん)ですが、「生命保険の非課税枠を確保する目的で保険に加入したかったのだが、保険会社で断られてしまった」というもの。

Aさんは生まれつき耳が聞こえず、そのためお話しもできないことから身体障害者等級表による1級の障害をお持ちでした。

 確かに障害のある方の保険加入は制限があります。特に精神障害の方は原則保険の契約者になることが難しいです。

ただ身体障害の場合、制限はあるものの、加入できる商品はありますので、まずは詳しくお聞きしてみました。


■ なぜ保険加入を断られたのか?

その後、筆者はAさんにお会いすることになりました。

弟のBさん(健常者)が同席し、筆者の話した言葉をBさんが手話でAさんに伝えてくれました。

手話が難しい場面では、音声認識AIを活用したスマートフォンの文字起こしアプリを使用しながらコミュニケーションをとることができました。

Aさんから筆者へは主に筆談での会話となりましたが、表情も豊かで、特にコミュニケーションに困ることはありませんでした。

そのため「耳が聞こえず話せないのは事実でコミュニケーションに時間はかかるが、対話は可能」というのが筆者の判断でした。

身体障害者の生命保険加入の可否の原則は…

  • 1. 保険会社の内規(健康状態等含む)
  • 2. 保険の理解能力があるかどうか

が基準となります。

身体障害者の場合、保険の種類によっては内規上加入できないものもありますが、今回は生命保険の非課税枠活用のため、健康告知のない一時払タイプの商品であれば加入できる保険会社が複数存在します。

2については、前述のとおり理解能力は十分と判断しました。

以上の理由からAさんがお断りを受ける理由はないように思いましたが、「うちでは対応できない」とのことでお断りを受けたそうです。

直接居合わせたわけではないので推測になりますが、

  • a.  本当に内規上加入できない。
  • b.  第3者を介した手話、音声認識アプリ、筆談によるコミュニケーションを認めない。
  • c.  bによる対応は可能だが事務負荷が掛かりすぎるので、お断りされた。


この3つが考えられます。

お断りされた保険会社名をお聞きしたところ、内規上加入できる商品があったため、bcが本音だが、建前上aの理由のように断られたのではないかと考えました。

確かにbのような対応は健常者の方の案件よりも事務負荷はかかりますし、時間もかかります。

営業マンにとっては時間効率が悪いかもしれません。しかし、そのような理由で断られたAさんはどうなるのでしょうか。


■ 保険契約が成立するまで

入れる保険があるのに入れないのであれば、Aさんにとっては不利益です。

ただそれだけでなく、何より断られた理由を本当に知ってしまうとショックではないでしょうか。

筆者はあまりそちらには触れず、「筆者の所属する保険代理店であれば対応できると思う。詳しくお話しさせてほしい」と告げ、それ以後は保険会社とも協議を重ねたうえで、Aさんと何度も面談をし、Aさんのご希望の保険契約をお預かりすることになりました。

健常者の方の案件に比べ4倍近く時間はかかりましたが、契約が終わった後のAさんの笑顔がとても印象的でした。

そして「私の父も自分と同じ障害があるが、同じ保険を勧めてほしい」とご紹介いただけました。

Aさんのお父様は87歳。高齢者のため、もう少し基準は厳しかったですが、こちらもBさんの協力を得て無事契約をすることができました。


■ 身体障害者が知っておきたい保険契約のポイント

保険会社の内規上加入できないこともあるので、すべての保険会社が対応できるわけではないことが大前提ですが、身体障害者の場合、何らかの形で意思疎通ができ、保険の内容の理解ができるのであれば、どこかの保険会社で対応できる可能性があります。

また今回の保険は健康告知のないタイプの死亡保障商品でしたので、現時点ではある程度選択肢がある印象ですが、入院等の医療保障については、障害の状態によってはもう少し制限がかかる可能性があります

いずれにしても保険担当者が保険会社内部と調整するケースがあるので、親身になってくれる保険取り扱いの担当者に相談するのが良いでしょう。


■ 身体障害を持つ方の保険契約サポート

令和3年に障害者差別解消法が改正され、令和64月1日より事業者による「合理的配慮の提供」が義務化されました。

「障害のある人への不当な差別的扱い」を禁止するものですが、こういったことが法改正で義務化されるということは、いまだに現場では差別的な取扱いがあるということ。

今回の件については、直接お断りした保険会社に理由を聞いたわけではないので真相は定かではないですが、常にプロとして目の前のお客様のために何ができるかを考え、行動できる人でありたいと改めて思った出来事でした。


【筆者プロフィール】

福本 知輝(ふくもと ともき)
福本FP事務所 代表
広島県相続診断士会 会長/寺院コンサルタント
2級ファイナンシャル・プランニング技能士/相続診断士
終活カウンセラー1級/笑顔相続道 正会員
縁ディングノート・プランナー

福本知輝


相続・保険・資産運用の専門家として、西日本を拠点に幅広く活動。特に「寺院コンサルタント」として、お寺関係者からの相談実績も多く、信頼を集めている。生命保険や相続対策、資産運用に関する提案を通じて、お金に対する不安を和らげ、「心を軽くする」サポートを提供。

また、相続や終活の現場で「縁ディングノート」の活用を提唱し、多くのご家族が前向きに人生と向き合うための支援も行っている。

信条は「安心できる未来づくりのお手伝い」。相談者一人ひとりの思いや背景に寄り添いながら、心の通ったアドバイスを届けている。


【筆者へのお問い合わせ先】
福本FP事務所
〒734-0027 広島県広島市南区仁保南2-18-11
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