"人生後半の保険加入"に大切な視点とは①~どんな時に使うお金か~
公開日:2025-06-02 00:00
目次
■ 保険の「契約者」を変更できますか?
「わたしの保険の契約者をそれぞれ夫と息子に変更してもらえますか?」
つい先日のこと、筆者のもとへ60歳代のA子さんから連絡がありました。A子さんは、なぜ、そのように思われたのでしょう。
A子さんのご家庭は、上場企業を定年退職されたご主人と、海外赴任中の一人息子の三人家族です。
50歳代後半まで仕事を続けていたA子さんですが、病気がきっかけで療養のためにと少し早めに退職し、株式投資を楽しみながら穏やかな暮らしをされています。
すぐに命にかかわる病気ではないものの、体調がすぐれない日は少し不安になることが多くなってきたようです。
■ 最初の保険相談は遡ること10年前
筆者がはじめてA子さんご家族とお会いしたのは10年ほど前です。
大学卒業後も進学を希望している一人息子さんのことを気にかけながら、趣味も仕事も満喫している女性で、友人も多く生き生きとしていました。
当時は、加入中の更新型の保険が一定の年齢になると更新できなくなってしまうらしいと心配になって、ご友人の紹介で筆者のもとへ相談にこられたのです。
その際によく確認したところ、加入されている保険以外に、既に支払いが終わっている生命保険があることがわかりました。
当時のライフプラン上に必要なものは満たしており、数年後になくなってしまう医療系の保障のみ追加で準備されました。
その後、1年も経たないうちに、病気が見つかったため、その保険を治療費の一部に充てることができ、保険料の支払いも免除になっています。
「本当にありがたいことだけれど、保険料を払ってもいないのにいつまでもお金を受け取ったら税金がかかるんじゃないかしら?」と心配されました。
保険料免除になってからも、医療保険で支払われる給付金には税金もかかりませんので、安心して請求手続きをするようにお伝えしています。
■ 「相続が心配」あらゆる気持ちを整理していくと…
A子さんからは、その後も資産運用や不動産に関するご相談の際に、ご長男の進学や趣味のお話、実家のお母様のお話もよく聞いていました。
「相続が心配なのだけれど・・・」というお話があった時には、お母様の相続のことかと思ってお伺いしたところ
「母はまったく耳を貸さないので。それより、うちは長男が一人なので、私や主人の相続のことが不安で・・・」と話されていました。
ご長男のことはよく知っており、家族仲も良好なので、争うことの心配ではなさそうです。
こういう時に大切なのは、具体的に相続の「何」が心配なのか、そして本当の心配ごとはどこにあるのかを一緒に明らかにしていくことです。
色々とお話を伺っていくと
・ご主人はゴルフ三昧、自分も体調のよい時を選んで好きなことをしていきたい
・まだ行ったことのない旅行先に70代前半のうちまでに行っておきたい
・認知症や介護が必要になった場合もなるべく自宅で過ごしたい
・収益物件は長男にそのまま渡したい(その後処分するか否かは長男に任せたい)
・長男は今後も海外暮らしが多くなる可能性が高い
と色々な「夢」や「不安」が見えてきました。
A子さんには「やりたいことリスト」づくりをしながら自分のお金を自分のために使っていく計画と、遺した資産の承継のしかたを一緒に考えていきました。
整理をしていった中で、10年前よりもだいぶ増えていた現金資産の一部を有効活用するために一時払いの終身保険にしました。ご主人も現金の一部を同様にされました。
■ 保険に加入する目的
高齢者が保険に入る主な目的には、次のようなことが挙げられます。
1️⃣ 葬儀費用・お墓代の準備
2️⃣ 遺族(配偶者・子ども)への生活保障・資産分配
3️⃣ 相続対策(現金化・納税資金の確保・相続税対策)
4️⃣ 医療・介護への備え(医療保険・介護保険)
受取時にかかる税金についてもご説明し、契約者=被保険者=A子さん、死亡保険金の受取人はご長男、となっています。
また、もう一本の保険では受取人をご主人としています。
死亡保険金の受取時にかかる税金は下の表の通りです。
そして、保険金受取人が法定相続人の場合、「500万×法定相続人の数」は、基礎控除とは別に相続続財産全体から差し引くことができます。
※基礎控除は、3000万+(600万×法定相続人の数)
「受取人を契約者にしたい」と思ったのはなぜか、お伺いしたところ、お母様の「ご指導」とのことでした。
A子さんのお母様は離婚後に娘二人を女手ひとつで育ててこられ、90歳近くになった今も娘さんたちに対しては厳しい口調で意見することが多いそうで、逆らえないのだと聞いています。お母様のお話はこうです。
・独身の弟のためにかけていた生命保険を弟が亡くなって保険金を受け取った。
・契約者=受取人=姉、被保険者=弟という契約形態だった
・受取時に保険会社に聞いたら税金がゼロだった
という「結果」から、契約者と受取人を一緒にしておけば税金はかからないという理解に至っているようです。
伝聞なので、正確なところはわかりませんが、一時所得として受け取っても、結果として課税対象額が一時所得の基礎控除50万円以内だったために税額がゼロになったのかもしれません。
では、もし契約者をご長男に変更した場合、どうなるでしょうか。
一時払いの保険料を支払ったのはA子さんですから、この契約をご長男に変更することは、ご長男に贈与したことになります。
契約者を変更した時点では贈与税はかかりませんが、もしご長男が、A子さんの生前にこの保険を解約して解約返戻金を受け取った場合、その時点で贈与税の対象となってしまいます。
一方で、ご長男が死亡保険金として受け取った場合には、相続税の「生命保険非課税枠」は適用されず、「所得税(=一時所得)」の対象となってしまいます。
■ 保険の見直しをする際に大切なことは何か
A子さんのお母様が娘にこのようなアドバイスをしたのは何故でしょうか。母親の言うことが正しいのだ、黙っていうことを聞きなさい、ということでしょうか。
お母様にとってはA子さんは何歳になっても大切なわが子であり、A子さんが損をしたり失敗したり騙されたりしないようにという親心以外の何ものではないと思うのです。
だからと言って、実際に保険金を受け取った時に「こんなはずじゃなかった」と思うのは受取人の方です。だとしたら、この保険に関わるA子さんのご家族、ご長男とご主人とA子さんに、この保険の目的は何か、受け取る時のお金がどうなるか、税金はどうなるか、を説明して、何を優先するのかを自分たちで納得できるかたちを選んでもらうしかありません。
損得や効率や正解ではなく、そこに関わるご家族がいちばん納得できるかたちを決められるようにサポートするのが、我々、保険担当者の役割なのです。
■ 人生後半に検討する保険だからこそ
生命保険には様々な力があります。その力を発揮できるのは、何らかの形で保険会社からお金を受け取って使う時です。
人生後半に検討する保険は、現役時代以上に使う目的が多種多様になります。
いつ何のために使うお金なのかという視点を大切に、受け取る時に納得できる入り方にしておけるように、プロに相談していきましょう。
■ 次回は「おひとりさま」の保険加入時のポイントを解説
そして、昨今増えているのが、いわゆる「おひとりさま」です。おひとりさまの場合、どのような保険が役に立つでしょうか。
そして、加入時に注意することはどのようなことでしょうか。これは続編として、次回のコラムにまわしたいと思います。
金田 京子 (かねだ きょうこ)
ファイナンシャルプランナー
- ライフプランニングや家計の見直しなどを中心に1万件を超える個別相談に携わり、金融教育インストラクター、セミナー講師としても活動。
- 法律事務所・金融機関勤務での経験や知識を活かしながら、専門用語を使わずにわかりやすい言葉で、世代間をつなぐ相続・終活コンサルティングをおこなっております。
- 【保有資格】
- 縁ディングノートプランナー®
- 終活カウンセラー®1級
- 相続診断士® 笑顔相続道正会員
- 2級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)
- トータルライフコンサルタント(生命保険協会認定FP) など
今秋、笑顔相続コンサルティング株式会社、シニアライフ相談サロンめーぷるの共同主催で、おひとりさまの増加と多死社会に対応する専門家の育成を目指す「おひとりさま相続大学」が開講され、生命保険分野の講師を担当します。
講座の定員枠に限りがありますので、ぜひお早めにお申し込みください。
https://pro.form-mailer.jp/lp/664dcf41327606
- 【筆者への問い合わせ先】
- 株式会社Finlife 東京支社
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