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家庭裁判所で相続は全部解決できる?

公開日:2026-09-28 00:00

目次

■遺言分割調停でよくある誤解

相続のご相談を受けていると、最近、よく聞かれる質問があります。

「父が亡くなる前に、兄が父の預金をかなり引き出しています。遺産分割調停を申し立てれば、それも家庭裁判所がまとめて解決してくれるんですよね?」

お気持ちはよくわかります。

相続の問題なのだから、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てれば、相続に関する問題をすべて調べてもらい、最後には全部まとめて解決してもらえる。

そのように考えるのは、むしろ自然なことだと思います。

しかし、実際の家庭裁判所の遺産分割手続きは、そこまで万能な制度ではありません。

家庭裁判所で遺産分割の対象となるのは、原則として、
「今も残っている」「まだ分けられていない」「プラスの遺産」です。

この「家庭裁判所ができること、できないこと」を知らないまま調停を始めると、

「せっかく裁判所に来たのに、なぜこれを解決してくれないの?」

という戸惑いにつながることがあります。

今回は、家庭裁判所の遺産分割事件の「守備範囲」について解説します。


■家庭裁判所が分けるのは「今ある遺産」が基本


例えば、父が亡くなった時点で、父名義の自宅、預金2,000万円、株式500万円が残っていたとします。

これらは、典型的な遺産分割の対象です。

家庭裁判所では、誰が相続人なのか、何が遺産なのか、その財産はいくらなのかを整理した上で、最終的に「誰が何を取得するのか」を決めていきます。

家庭裁判所のハンドブックでも、原則として「被相続人が亡くなった時点で所有していて、現在も存在するもの」が遺産分割の対象になると説明されています。

反対にいうと、相続に関係する問題だからといって、何でも遺産分割の中で当然に解決できるわけではありません。

例えば、すでに有効な遺言や遺産分割協議によって分け方が決まっている財産は、「まだ分けられていない遺産」ではありません。

借金などの債務も、土地や預金のような「プラスの遺産」とは性質が異なります。

また、裁判所に申し立てれば、裁判所が全国の銀行や証券会社を調査して、隠れた財産をすべて探してくれるわけでもありません。


■生前に引き出された預金はどうなる?

ここで、冒頭の質問に戻ります。

父の預金口座に1,000万円があり、父が亡くなった時にもその1,000万円が残っていれば、預金1,000万円が遺産分割の対象になります。

ところが、父が亡くなる前に、兄がその1,000万円をすでに引き出していたらどうでしょうか。

銀行に対する「預金1,000万円」という権利は、すでに払戻しによって消えています。

したがって、父の死亡時には、もう「預金1,000万円」は存在していません。

ここで問題の姿が変わります。

兄が父に無断で自分のために1,000万円を使ったのであれば、
「その1,000万円を兄から返してもらうことができるのか」という
不当利得返還請求や損害賠償請求などの問題になる可能性があります。
 

反対に、父が生前に、「この1,000万円はお前にあげる」と兄に贈与していたのであれば、「返してください」という問題ではなく、生前贈与、場合によっては特別受益として遺産分割の中で考慮する問題になります。

さらに、兄が引き出していたとしても、実際には父の入院費や施設費・生活費として使っていたのであれば、そもそも兄に返還義務があるとは限りません。 

つまり、「父の口座から1,000万円が引き出されていた」という一つの事実だけでは、法律上の答えは決まりません。

何のために、誰の意思で、誰のために使ったのかによって、問題の種類そのものが変わるのです。


■一つの相続なのに、二つの裁判になることもある


一般の方にとって最もわかりにくいのは、ここだと思います。

同じ父の相続なのに、「今残っている遺産をどう分けるか」は家庭裁判所、
「兄が使った1,000万円を返還する義務があるか」は、場合によっては家庭裁判所とは別の民事訴訟というように、手続きが分かれることがあります。
 

「相続の話なのだから、一つの裁判所で全部解決してほしい」と思うのも当然です。

しかし、法律上は、「残っている遺産を誰にどう分けるのか」という問題と、「ある人が別の人にお金を返す義務を負っているのか」という問題は、別の性質を持っています。

家庭裁判所の遺産分割事件は、前者の「残っている遺産を誰にどう分けるのか」を解決するための手続きです。

後者の「ある人が別の人にお金を返す義務を負っているのか」まで常に判断できる制度にはなっていません。

もっとも、調停は話合いの手続きですので、相続人全員が合意すれば、使途不明金なども含めて一体的に解決できる場合があります。

家庭裁判所も、そのような合意による柔軟な解決を認めています。

その意味では、「家庭裁判所では絶対に扱えない」というより、「相続人全員の合意がなければ、家庭裁判所の遺産分割だけでは決着できない問題がある」という理解が正確です。


■相続では「何が問題なのか」を分けることが大切


相続相談では、

「兄が勝手にお金を使った」
「葬儀代を自分だけが負担した」
「親には借金もあった」
「遺言書も納得できない」

と、いくつもの問題が一度に出てくることがあります。

相談者から見れば、すべて「父の相続についての問題」です。

しかし、法律上は、それぞれ使うべき制度や手続きが違うことがあります。

□ 今残っている遺産をどう分ける問題なのか
□ なくなったお金を返してもらう問題なのか
□ 生前贈与として考える問題なのか
□ 債務や葬儀費用をどう清算する問題なのか

まず、この交通整理をする必要があります。

家庭裁判所の遺産分割調停は、相続問題を解決するための非常に重要な制度です。

しかし、相続に関するすべての問題を一つの手続きで解決してくれるわけではありません。

「何で相続が止まっているのか」がわかれば、使うべき手続きも見えてきます。

相続を前に進める第一歩は、いきなり裁判所に申し立てることではなく、
絡み合った問題を一つずつ分けて、「どの問題を、どの手続きで解決するのか」を整理することなのです。


【筆者プロフィール】

大石 誠(おおいしまこと)

弁護士(神奈川県弁護士会所属) 
縁ディングノートプランナー®
おひとりさま相続大学®講師
おひとりさま終身支援士®


 
「止まった相続を終わらせる弁護士」
大石誠 先生


平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
横浜で、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。
司法書士・税理士・行政書士に相談しているものの、相続人同士の話し合いが進まない、不動産の分け方で意見が合わない、遺留分を請求したい・請求されたなど、通常の手続きだけでは前に進まなくなった相続について、法律・感情・公平感を整理し、解決までの道筋を一緒に考えます。
あなたの相続を「終わらない悩み」から「終わる安心」へ。そのために、初期段階での正確な法律助言と、相続人全員が納得できる解決策の設計を心がけています。


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