成年後見制度が変わります 「一度始めたらやめられない後見」から「必要なときだけ使う補助」へ
公開日:2026-07-20 00:00
目次
■「成年後見制度」は使いづらい?
相続相談を受けていると、次のようなご相談を受けることがあります。
「親の施設費用のために預金を下ろしたいが、銀行で止められた」
「実家を売却したいけれど、名義人である親の判断能力が低下している」
「成年後見人を付けるしかないと言われたが、一度始めるとやめられないと聞いて不安だ」
このような場面で関係してくるのが、「成年後見制度」です。
成年後見制度には、これまで家族が利用をためらいやすい課題がありました。
遺産分割協議を進めるために成年後見人を付けることがあります。しかし、遺産分割が終わったからといって、後見が当然に終わるわけではありません。原則として、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続きます。
「相続を進めるためだけに使いたかったのに、なぜその後もずっと続くのか」という違和感が生まれやすい制度だったのです。
この成年後見制度が、民法改正によって大きく変わることになりました。
まだ施行日は確定していませんが、令和10年頃までには施行される見込みです。
■これまでの成年後見制度の問題点
現行制度では、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」という三つの類型があります。
このうち、後見は最も重い類型です。
成年後見人には広い代理権があり、本人の財産管理や契約手続きに大きく関与します。
もちろん、本人を守るために必要な制度であることは間違いありません。
しかし、問題は「重すぎる」ことです。
遺産分割のために後見人を付けた。
預金の解約のために後見人を付けた。
実家の売却のために後見人を付けた。
このように、きっかけは特定の手続きだったとしても、いったん後見が始まると、その目的が終わった後も制度は続きます。
法制審議会の資料でも、現行制度の課題として遺産分割などの利用目的が解決しても、判断能力が回復しない限り利用をやめることができないこと、成年後見人に包括的な代理権・取消権があるため、本人の自己決定が必要以上に制限される場合があることなどが指摘されています。
■改正後は「補助」に一元化される
今回の改正の大きな柱は、現行の「後見」「保佐」「補助」という三類型を見直し、基本的に「補助」の制度へ一元化することです。
内閣法制局の説明でも、今回の改正は、
高齢化や単身高齢者世帯の増加などを背景に、後見及び保佐の制度を廃止し、補助の制度の適用範囲を広げるものとされています。
たとえば、
遺産分割だけが問題であれば、遺産分割に必要な範囲で支援を付ける。
不動産売却が必要であれば、その手続きに必要な範囲で代理権を付ける。
預金の払戻しが必要であれば、その範囲で支援を検討する。
つまり、「この人には後見」「この人には保佐」と大きく分けるのではなく、「今、何のために、どの権限が必要なのか」を見ていく制度になるということです。
■相続との関係で重要なポイント
相続との関係で特に重要なのは、補助人の同意が必要となる行為の中には、相続放棄や遺産分割など、相続に関する重要な手続きも含まれています。
これは、認知症の相続人がいるために遺産分割協議が止まっているケースに大きく関係します。
これまで、相続人の一人が認知症で判断能力が不十分な場合、遺産分割協議を進めるためには、成年後見人を付ける必要がある場面が少なくありませんでした。
改正後は、遺産分割に必要な範囲で補助人を付け、遺産分割が終わった後に不要な権限を外すという使い方がしやすくなる可能性があります。
これは、「止まった相続」を前に進めるための新しい選択肢になるかもしれません。
もっとも、誤解してはいけない点があります。
制度が柔軟になるからといって、家族が本人の財産を自由に動かせるようになるわけではありません。
成年後見制度も、改正後の補助制度も、あくまで本人を守るための制度です。
たとえば、本人の居住用不動産を売却するような重要な場面では、家庭裁判所の関与が必要になります。親が施設に入ったから、家族の判断だけで実家を売れる、という話ではありません。
また、一時的ではなく、普段からご自身で判断することが難しい状態にある方については、「特定補助人」という仕組みも設けられます。これは、必要がある場合に、一定の取消権などを持つ補助人を付ける制度です。
つまり、改正後の制度は、本人の自己決定をできる限り尊重しつつ、本当に必要な場面では本人を守る仕組みも残すという設計です。
便利になる一方で、何でも簡単にできるようになるわけではありません。
■それでも、早めの準備が大切です
今回の改正は、相続や終活にとって大きな意味を持ちます。
しかし、制度が変わることを待っていれば安心、という話ではありません。
まず、改正法は成立していますが、現時点ではまだ施行前です。実際に新しい制度を使えるようになるのは、少し先です。
それまでは、現行の後見・保佐・補助の制度を前提に考える必要があります。
また、本人の判断能力が低下した後にできることには限界があります。
親が元気なうちであれば、遺言、任意後見契約、家族信託、財産管理契約など、"事前に検討できる対策"があります。
反対に、判断能力が低下した後は、家庭裁判所の手続きが必要になる場面が増えます。
大切なのは、制度が変わることを知った上で、自分の家庭では何を準備すべきかを考えることです。
■成年後見制度を上手に活用するために
成年後見制度の改正は、単なる法律の細かい変更ではありません。
「本人を守る」という考え方は維持しながら、本人の自己決定をできる限り尊重し、必要な支援を必要な範囲で付ける制度へ変わっていくものです。
相続の現場では、判断能力の低下が原因で手続きが止まることがあります。
この問題は、家族だけで抱えていても自然には解決しません。
制度が変われば、将来的には解決の選択肢が増える可能性があります。
しかし、制度が変わっても、準備をしない家庭の相続は止まります。
だからこそ、親が元気なうちに、財産、遺言、実家の扱い、認知症になった場合の対応を整理しておくことが大切です。
【筆者プロフィール】
大石 誠(おおいしまこと)
- 弁護士(神奈川県弁護士会所属)
- 相続終活ラボ会員
- 縁ディングノートプランナー®
- おひとりさま相続大学®講師

平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
横浜で、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。
司法書士・税理士・行政書士に相談しているものの、相続人同士の話し合いが進まない、不動産の分け方で意見が合わない、遺留分を請求したい・請求されたなど、通常の手続きだけでは前に進まなくなった相続について、法律・感情・公平感を整理し、解決までの道筋を一緒に考えます。
あなたの相続を「終わらない悩み」から「終わる安心」へ。そのために、初期段階での正確な法律助言と、相続人全員が納得できる解決策の設計を心がけています。
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