「自分が亡くなったあと」は思い通りになるか?ある親子の事例から学ぶ、本当に必要な3つの準備
公開日:2026-06-22 00:00
目次
■はじめに
相続コンサルタントやFP(ファイナンシャルプランナー)として多くの終活・相続相談をお受けしていると、「自分が亡くなったあとは、こうしてほしい」という強いご希望を口にされる方に多く出会います。
遺言を書いたり、エンディングノートに書き留めたりする方も増えていますが、果たしてその願いは本当にその通りに実行されるのでしょうか。
生前にどれだけ強い希望を持っていても、遺された家族にそれが伝わっていなければ、あるいは家族の負担が大きすぎれば、その願いが叶わないことは珍しくありません。
今回は、筆者が関わったご遺族の事例を通じて、「死後の意思を形にするために本当に必要なこと」を考えてみましょう。
※プライバシー保護の観点から、ご相談者の特定を避けるため、お名前はすべて仮名とし、事例の本質を損なわない範囲で事実関係を一部変更・加工してご紹介します。
■事例:90歳で亡くなったAさんの「思い通りにならなかった」最期
1. 葬儀とお墓:言葉だけでは動かなかった家族
Aさんは生前、「お葬式は、昔お説法を聞いて深く感銘を受けたお寺にお願いしてくれ」と家族に頼んでいました。
しかし、いざAさんが亡くなったとき、遺された家族はそのお寺の正確な名前も、住職のお名前も、連絡先や場所すら一切聞いていませんでした。
もちろん、それを書き留めたメモなども遺されていません。
ただでさえ慌ただしい葬儀の準備の中、長男は困り果て、ため息混じりにこう漏らしました。
また、その後の「お墓」についてもすれ違いがありました。
Aさんは周囲に「自分が亡くなったら、長年の友人であるBさんの隣のお墓に入れてくれ」と言っていたのです。
しかし、そのお墓がある場所は家族の住まいから遠く離れた田舎で、お参りに行くにも不便な立地でした。
さらに、家族はBさんのことをよく知りません。
Aさん自身も具体的な生前契約や費用の準備をしていたわけではなく、いわば「口で言っているだけ」の状態。
「あとは子供たちがなんとかするものだ」というスタンスだったのです。
実際に相続が発生した後、相続人である長男は
「わざわざ遠い田舎までお墓参りに行くのは大変だから、近所のお寺で永代供養にする」と決め、Aさんの希望は叶いませんでした。
Aさんと長男の間には、生前からこうしたコミュニケーション不足による深い心理的な溝があったのです。
2. 庭木と近所のCさん:思い通りになった願いが引き起こした波紋
一方で、Aさんの願いが思い通りになったこともありました。
それは近所に住む50代のCさんとの関係です。
晩年、一人暮らしだったAさんのもとをCさんは頻繁に訪れ、話し相手になったり、庭木の剪定を手伝ったりしていました。
AさんはCさんに「私に何かあったら、この庭木を頼むね」と常々言っていたため、CさんはAさんの死後もその約束を忠実に守り、暇を見つけては庭の手入れを続けてくれていました。
Aさんにとっては、自分の意思が死後も尊重された形です。
しかし、事態は思わぬ方向へ進みます。
Aさんの死後しばらくして、長男がCさんに「これまで母がご迷惑をおかけしました。もう庭木は剪定しなくて結構です」と伝えたのです。
しかし、季節が変わり庭木が伸びてくると、今度はCさんから長男へ連絡が入るようになります。「早く庭木の手入れをしてください」という催促です。
「Aさんから頼まれていたからずっと私がやっていた。
でも家族からするなと言われた以上、私は見守るしかない。
けれど、このまま放置されて庭が荒れていくのは、Aさんが不憫でならない」
という、純粋な故人への情からの行動でした。
しかし、再三にわたるCさんからの催促のプレッシャーに耐えかねた長男は、
最終的に「実家そのものを売却する」という極端な決断を下すことになってしまいました。
■今回の事例から学ぶ、死後の意思を叶える「3つの準備」
このAさん一家の顛末を見守ってきた中で、筆者は自分の死後に何かをお願いしたいことがあるならば、次の3つの要素が重要であると痛感しました。
- ① 遺言などの「強制力」
- ② 本人による「事前準備」
- ③ 実行してくれる人との「人間関係」
葬儀やお墓の件に関して、Aさんには①も②もありませんでした。
指示を「実行してくれるはず」の長男との③(人間関係)が希薄だったため、
長男にとってAさんの生前の言葉は「尊重すべき遺志」ではなく、具体的な情報もない「無茶振りのようなわがまま」と捉えられてしまいました。
長男側からすれば、困惑や負担感の方が大きかったのでしょう。
逆に、庭木に関してはCさんとの間に強固な③(人間関係)があったため、Cさんは死後も自発的に動いてくれました。
しかし、そこに①(法的な整理や遺言)や②(家族への事前の説明や調整)がなかったために、遺された家族とCさんとの間で摩擦が生じ、結果として「実家の売却」という、Aさんが予期しなかったであろう結末を招いてしまったのです。
■おわりに:一番の相続対策は「円満な家庭」と「対話」
もし一定の財産があれば、遺言信託や死後事務委任契約などの仕組みを利用して、お金を払って第三者に事務を執行してもらう(①や②を固める)ことは可能です。
しかし、どれだけ法的な準備を完璧に整えたとしても、遺された家族の心に禍根や不満が残るようでは、本当の意味での「幸せな終活」とは言えません。
事例の長男の言葉の背景には、生前のコミュニケーション不足や、長年の関係性のこじれが根底にあります。
今回のケースでは、仮に長男との関係が良好であれば、たとえ事前の準備や法的な強制力がなくとも、ある程度はAさんの希望が叶っていたかもしれません。]
相続対策において、節税や遺産分割のテクニックよりも重要で、かつ最も見落とされがちなのは、「円満な家庭環境」そのものなのです。
自分の死後に叶えたい希望があるのなら、独りよがりに「こうしてくれ」と言い遺すのではなく、
まずはその希望を家族に開示し、家族の負担にならない方法を一緒に考えることが大切です。
「自分の意思を通すための準備」ではなく、「遺される家族への最後の思いやり」として。
まずは今日、家族とこれからのことを話し合う時間を作ることから始めてみませんか?
【筆者プロフィール】
福本 知輝 (ふくもと ともき)
福本FP事務所 代表

西日本を中心に一般の方のライフプランや資産運用に関する幅広いアドバイスは勿論、寺院や公務員向けのセミナーも得意とし、豊富な知識と経験を持つ。「生前対策」から「相続発生後の次世代への引き継ぎ」までを一貫してサポートすることで、お客様の安心と笑顔を大切にしている"笑顔相続専門家"です。
・広島県相続診断士会 会長
・寺院コンサルタント
・2級ファイナンシャルプランニング技能士
・相続診断士
・笑顔相続道正会員
・終活カウンセラー1級
・縁ディングノートプランナー®
【筆者への問い合わせ先】
福本FP事務所
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