不動産の生前贈与:「お得」に惑わされないで! 専門家が警鐘する“4つの落とし穴”
公開日:2025-12-08 00:00
目次
■はじめに
〜その不安、ひとりで抱えなくて大丈夫〜
「親の家の名義、どうしたらいいのだろう?」
こうした不安は、ある日突然ふと心に浮かんできます。
実家に帰る機会が増えたり、
親御さんの体調の変化が気になったり、
SNSやネット記事で「生前贈与がお得」といった情報が目に入ると、
「今、なにか動かなきゃいけないのかな…」と焦ってしまう方が多いようです。

でも、どうか安心してください。
不動産の名義について、“急いで決めなければいけない”という人はほとんどいません。
大事なのは、まわりの情報に振り回されすぎず、
まずは 「あなたの家族にとって何がいちばん大切か」 を落ち着いて整理することです。
■生前贈与と相続の“違い”をやさしく整理すると…
生前贈与と相続の違いは、難しい言葉で考える必要はありません。
一言でまとめると、
「家というバトンを、いつ渡すか」 の違いです。
・生前贈与:親が元気なうちに、意図してバトンを渡す
・相続:親が亡くなった後、自然とバトンが引き継がれる
どちらにもメリットがありますが、
不動産は現金と違い、
一度名義を変えると“後戻りがとても難しい”
という特徴があります。
ネット上には “早く渡したほうが得” と見える情報も多いですが、
私の現場の実感としては、
相続のほうが安心できるご家庭が多いのも事実です。
もちろん例外もあり、正解はご家庭の状況によって変わります。
だからこそ、まずは焦らず「うちはどうだろう?」と見つめ直すところから始めましょう。
■専門家が見てきた “もったいない生前贈与” の4つの落とし穴
ここからは、私が実務の現場で実際に見てきた、
「良かれと思ってやった生前贈与が、逆効果になってしまったケース」 を4つの視点からお伝えします。
① 税金の心配がない家庭ほど、生前贈与に飛びつきやすい
相続税の心配がないご家庭ほど、「生前贈与がお得らしい」とネット情報に影響されがちです。
しかし実際は、
・登録免許税
・不動産取得税
・司法書士費用
といった“別のコスト”がまずかかり、
結果として 節税にもならず、手間とお金だけが増えてしまう ケースもあります。
実務の現場でも、
「不動産を贈与したい」というご相談はよくいただきます。
よくよく状況を整理していくと、
「思った以上に手間もお金もかかるんですね…」
「やっぱり今のままで様子を見ます」
と判断を見直される方は少なくありません。
必要なのは“節税”ではなく、
あなたのご家庭にとっての“適切なタイミング” を見極めることなのです。
② 税金よりも怖いのは“家族の記憶”が生むトラブル
親御さんが善意で
「この家は長男(長女)にあげておくね」
と名義を変えても、その後の相続の場で…
「あの家は兄(姉)だけもらったよね?」
——と、兄弟間のわだかまりとして残ることがあります。
法律上は「特別受益」という扱いですが、
もっと厄介なのは “家族の記憶” です。
税金よりも、
家族関係がこじれることのほうが、ずっと重い代償です。
③ 余命宣告後の“駆け込み贈与”のほとんどは効果がない
親御さんの病状が重くなり、
「今のうちに名義を!」と急いで贈与するケースがあります。
しかし、亡くなる前の数年以内の贈与は、多くが“相続財産に戻される”ため、
節税効果はほぼゼロになることも。
時間も費用もかけたのに、結果は変わらない——
これは本当にもったいないケースです。
④ 生前贈与でいちばん失われるもの、それは「親の自由」
私がもっとも強くお伝えしたいことです。
親御さんが
「子どもに迷惑をかけたくないから、名義を変えておくね」
と親切心で贈与してしまうと…
・家を売りたいときに売れない
・老後資金として活用しづらい
・必要なときに住み替えができない
・施設入居に必要な資金が捻出しにくい
つまり、
親が“自分の人生を自分で選べる自由”
が、知らないうちに奪われてしまうのです。
税金よりも大切なのは、
親の人生の選択肢をしっかり残しておくこと。
筆者は心からそう感じています。

■おわりに
〜正解はひとつじゃない。だからこそ、独りで決めなくていい〜
生前贈与が向く家庭もあれば、
相続のほうが安心な家庭もあります。
まず老後資金を優先すべき場合、
家の活かし方を考えるべき場合——
本当にさまざまです。
ネットに書かれている「得・損」は、
あなたの家族にそのまま当てはまるとは限りません。
筆者は日々、相続や実家の不動産で迷う方々のお話を伺っていますが、
どのご家庭にも、それぞれの背景と答えがあります。
どうかひとりで抱え込まないでくださいね。
もし迷っていたら、どうぞお気軽にご相談ください。
あなたのご家庭だけの事情に合わせて、無理のない選択肢を一緒に整理できます。
【著者プロフィール】
稲場 晃美(いなば てるみ)
R55不動産✕相続の専門家
株式会社 高田デザインスタジオ 代表取締役

港区を中心に城西エリアの住み替えや、賃貸アパートの相続・承継をサポートしています。
「実家をどうすれば良い?」「家族に迷惑をかけたくない」
そんなお気持ちに寄り添い、生前の準備から相続発生後の手続き、不動産の売却までワンストップでお手伝い。
“家族の気持ちに寄り添う実務家”として、生前準備から相続後の手続きまで伴走しています。
【保有資格】
宅地建物取引士
ファイナンシャルプランナー(AFP)
縁ディングノートプランナー™
相続診断士
【筆者へのお問い合わせ】
E-mail:tsumugistyle.office@gmail.com
公式サイト:https://www.tsumugistyle.com/



