家族を不安にさらさないための"タンス預金"の未来設計
公開日:2025-11-24 00:00
目次
■二千万円の現金振込
先日、80代のお客様のお振込み手続きに同席させていただきました。
米ドル建てで一時払保険料の約1.5倍の死亡保障を得られる終身保険のお振込みです。
保険代理店である筆者へ、相続を踏まえた資産活用の相談をくださったご相談者様のお母様のお手続きの同席でした。
用心棒として役に立つか怪しいながらも、ジュラルミンケースならぬ布袋に入った現金を抱えるお客様の背後を、しっかり守りながら資産運用窓口へ着席。
「おせわになります。」と、窓口の方へ頭を下げるお客様。
今回の振り込みの目的と本人確認を済ませ布袋を差し出します。
「当行でもご案内できる商品だったのですけどね。」と残念そうなお顔の窓口担当者様。
金融機関では、預金残高を元にご提案はできても、表に出ないタンス預金にまで言及できますまい。
「なんだか申し訳ありません」と、しおらしい態度を示す筆者。
お客様の本人口座を介さず、直接の振込と思っていたところ
「金額が大きいため一旦ご本人口座へ入金ののち振込としますね(※1)」との案内。
あぁこれでいよいよタンス預金が明確にオモテのお金になってしまいましたね、と横顔をうかがうも、なんだか晴れ晴れとした様子のお客様。
流れが特定できるお金になったとしても、生命保険自体に節税効果(生命保険の非課税枠)があることや、増やして遺せる機能に納得されて「タンス預金にしておく必要ないわね」と笑っていらっしゃいました。
※1「現金を一旦本人口座へ入金して、口座から振込」という手順について、メガバンク、地銀、信金、ゆうちょ、合計6つの金融機関へ電話にて確認したところ、明確な定義はないながら、半数が同様の取り扱いを推奨といった具合でした。これは税務署のため為というわけではなく、犯罪収益移転防止法、マネーロンダリングを防止する観点からとのこと。一般的には、10万円を超える現金振込については「振込の目的」や「詳細の本人確認」などを経て直接振り込みが可能です。
■家庭に眠る1万円札が増えている
昨年7月に、1万円札・5千円札・千円札が新しいデザインとなり、既に一年以上も経過するというのに、未だ見慣れず間違えそうになってしまうことが多い筆者です。
これはキャッシュレス決済がメインとなり、現金に触れる機会が大幅に減っていることも理由かと思います。
アラフィフの筆者ですが、老眼はまだこれからのはず…(笑)。
新しい銀行券が発行されると、金融機関を通じて順次古い銀行券が還収されることになります。
日本銀行によると2025年6月時点で30%が新銀行券へ切り替え済みとのこと。
着実に切り替えは進んでいるとはいえ、前回2004年、5千円札が新渡戸稲造から樋口一葉へと切り替わった改刷時と比較して半分のスピードという現状。
今回、新銀行券への切替スピードが緩やかな理由として
① 全体の銀行券発行残高が増えている
② 金融機関と日銀との現金の出入りが減っている
③ 急いで新券へ変える必要がない(2004年は偽造紙幣対策でもあった)
というものが挙げられますが、
相続FP視点として①に関心を持ちましたので、これを掘り下げてみたいと思います。
■20年間で増えた発行残高は60億枚
2004年から2024年の20年間で銀行券全体の発行残高は60億枚増えました。【図表3】

キャッシュレス決済の進展とともに現金決済の機会が減少すると思われるところ、銀行券の発行残高はむしろ増加しています。
こうした傾向は米国やユーロ圏においてもみられ「銀行券のパラドックス」とも呼ばれます。
発行残高が増える要因として、長期にわたって低金利環境が継続していることや、将来の不確実性への備えとして、現金を手元に保有する需要が高まっているからと考えられます。
なかでも、一万円札の増加が顕著であり、全体の発行残高を押し上げています。
高額券には財やサービスの取引目的の保有のほか貯蔵目的の保有傾向が高く、いわゆる「タンス預金」増加の可能性を示唆します。
■タンス預金の怖い未来
現在、日本のタンス預金の総額は50兆円にも上るとされています。
現金を手元に置いておくメリットとして
・すぐに使える
・銀行が破綻しても安心
・人に知られずに管理できる
などが挙げられ、長らく続く低金利時代のお金の置き場として一定の意味があったと思われます。
しかしながら、2025年現在は、私たちが久しく経験してこなかった「物価上昇・金利上昇の時代」に既に足を踏み入れています。
現金のまま持っておくことが資産の目減りに繋がってゆく時代に突入したのです。
「子供達に相続税がかからないようにと思ってタンス預金にしているの。」と、税金対策を考えているというお声も少なくありません。
お子様世代からしたらありがたい言葉のようでありますが、その考え方は脱税になってしまいます。
税務署の調査を見くびってはいけません。
調査が入った場合、対応するのは相続人であるお子様方です。
「脱税」という犯罪行為の可能性をお子様に残すということは、相続税の心配以上に酷なことかもしれません。
これからの世の中で現金を手元に置いておくデメリットとして
・インフレによる価値の目減り
・災害、盗難、紛失リスク
・相続トラブル・相続税申告の難易度
などが挙げられます。
【タンス預金で資産を守った場合のリスク例】
税金対策を考えていたとして、仮に65歳から85歳まで大切にタンス預金で資産を守った場合、現在の物価上昇を考慮すると、そもそもの資産が半減しかねません(毎年3%の物価上昇をした場合)。
また、この頃では強盗や特殊詐欺など物騒な事件に巻き込まれる心配も少なくありません。
自己判断で自由に扱える現金があるということは、認知機能の低下と共に現金を差し出してしまうリスクも高まります。
また、タンス預金の存在をご家族へ明確に伝えていない場合などでは、相続人同士のトラブルを招く恐れもあります。
■タンス預金を「オモテ」の資産にする選択肢
冒頭の80代のお客様も、お子様はお母さまの資産背景詳細を知らないという状況からの面談スタートでした。
タンス預金の今後のデメリットを回避する対策選択肢としては、資産運用、保険の活用、不動産の活用、生前贈与など、様々な選択肢があります。
何が適するかは、それぞれのご家族の状況やお考えによって異なります。
誰のために、何のために、どのような手段で資産を守っていく必要があるのかということを、ご家族と一緒に共有していくことで、無用な争いや、思いもよらぬ資産減を避けることに繋がります。
そのような対話の場に、専門的知識を持ち心の対話ができる相続FPの力をご活用ください。
■相続FPの役割
世の中に活かされないお金として保有したまま価値を目減りさせるかもしれない「タンス預金」については、これを「オモテ」のお金として光を当てていく大いなる使命があるなと感じています。
資産に関する相続対策について、いかに節税するかということを主軸にするのではなく、いかに家族や世の中のため為に幸せに活用される循環を育てていけるかを考える。そのようなテーマをもとに、ご家族が集いお互いの考えを共有していくことがまた家族の幸せな時間の過ごし方であると感じました。
そのようなお手伝いを私たち相続FPの役割として期待いただけたら嬉しいです。
鈴木 美志乃(すずき よしの)

- ワクワクライフプランナー。
- お客様の人生に寄り添いワクワクの未来を語らう和装FP。
- 相続と日本文化の継承をテーマにコラムを書いています。
- あなたの人生と相続についての想いを聞かせてください。
- 《保有資格》
- 相続診断士
- 笑顔相続道正会員
- 縁ディングノートプランナー
- 2級ファイナンシャルプランニング技能士・AFP
- 【筆者へのお問い合わせ先】
- 株式会社Finlife 東京支社 前橋サテライトオフィス
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