デジタル公正証書遺言(オンライン遺言)を実際に作成してみてわかった注意点─公証役場に行かずに作れる時代へ
公開日:2025-11-10 00:00
目次
■ 遺言作成が身近に
「作りたいとは思うけれど、足が悪い」
「仕事の休みが取れない」
「公証役場が遠い」。
公正証書遺言書を作成したい人の多くが、同じ壁に突き当たってきました。
これを大きく変えたのが、2025年10月に始まった公正証書作成手続のデジタル化です。
公証人・証人・遺言者が同じ場所に集まらなくてもよく、紙への押印も不要。
相続の現場では“紙の遺言”から“デジタルの遺言”へ移行しつつあります。

■ 10月から何が変わったのか?
従前と比べた場合の最大の変化は作成方法です。
従来は、
公証役場の訪問(あるいは公証人の出張)、証人2名の同席、紙への署名押印が原則でした。
しかし、10月以降は 、
ウェブ会議での本人確認、PDFへの電子署名、正本・謄抄本の電子交付が可能となり、原本は電子データで作成・保存されます。
効力と安全性は従来の公正証書遺言と同等です。
なお、リモート方式の利用は公証人が「オンラインでも問題ない」と認める範囲で運用されます。
これにより、「出向かなければ作れない」という重たいハードルが一気に下がりました。
■ デジタル遺言作成の当日の流れ
最近、実際にデジタル方式で公正証書遺言等を作成したケースがありました。
場所は首都圏内の介護施設。
遺言者は外出が難しいご高齢の方でした。
当日の流れは以下のように行われました。
① 公証人・証人が施設へ「出張」
② 公証人はノートPC、タブレット、Wi-Fiルーターを持参
③ 事前に作成したWordデータ(遺言書の案文)をその場で確認
④ WordをPDF化し、タブレット上で署名(押印は不要)
⑤ 電子原本として公証役場のシステムに保管。紙を介さず施設内で完結。
紙を使わず、公証役場へも行かない。手続はすべて施設内で完結しました。
■デジタル遺言を実際にやってみて判明した注意点
このような制度のメリットだけを語ると「便利になった」で終わりますが、現場で気付いたポイントは次の通りです。
①電波が弱いと成立しない
リモート作成はネット接続が前提です。施設・病院・自宅でも、電波状況が悪いと作業が中断し、手続き自体が進みません。
事前の通信チェックは必須だと感じました。
②タブレットに署名ができない人には別途手続きが必要
指先に力が入りにくい方や、タッチペンを持てない方もいます。
その場合は「自書が困難」であることを前提とした別方式で作成する必要があります。
★遺言者がご高齢の場合は特に見落とされがちです。
事前に、公証人に対して、タッチペンでの自書が困難である可能性を伝え、作成方法を相談しておく必要があると感じました。
③作成時間が長くなりました
これまでは公証人が遺言書等の内容を読み上げるなどして、意思確認をし、紙媒体の公正証書に署名押印をして完成という手順でした。ところが、Wordデータのpdf化、タブレットでの署名、アップロードという手順を踏むため、これまでは30分で終わったような手続が1時間以上を要しました。
筆者や公証人も含めて、新制度に慣れればもう少し作成時間は短縮できるようにも思いますが、どれだけスムーズに作成しても、紙媒体への署名押印と比較すると、やや作成時間は長くなるかと思います。
■ それでも専門家が必要な理由
制度が便利になっても、次のリスクは残ります。
• 遺言内容の構成が不適切
• 特定の相続人が不当に不利になる
• 意思能力など、有効性に争いが起きる
• 遺言執行の負担が大きく、家族がトラブルに巻き込まれる
書類がデジタル化されたからといって、相続で起きやすい問題が自動的に解決するわけではありません。
肝心なのは、「何を書くか」と「その後どう執行するか」です。
また、公証役場との調整や証人の手配、通信環境の確認など、新制度を前提に遺言書の作成をサポートする専門家が必要だと感じています。

■ デジタル遺言を最適に活用するには
デジタル公正証書遺言は、手段が変わるだけで効果は同じ。
しかし、遺言を作成できる人の範囲が一気に広がります。
• 高齢で外出が難しい
• 病院や施設に入居中
• 忙しくて公証役場に行けない
• 遠方に住む家族と共有したい
こうした事情を抱える人にとって、2025年以降は「遺言を諦めなくていい時代」になります。
相続は先延ばしにしても、問題は勝手に解決しません。
不安がある人は、制度と実務の両方を理解している専門家へ相談しておくことで、結果的に家族の負担を減らせます。
デジタル化が進む今、遺言はもっと身近に。
あなたの想いを、大切な人へ── 確かな形で未来へつなげていきましょう。
(参考資料)
https://www.moj.go.jp/content/001447151.pdf
https://www.koshonin.gr.jp/images/7aaee7fb5b3de582f4a87b5179dd478d.pdf
【筆者プロフィール】
大石 誠(おおいしまこと)
- 弁護士(神奈川県弁護士会所属)
- 笑顔相続道®正会員
- 縁ディングノートプランナー™

平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。
遺言、家族信託、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応しています。
【筆者へのお問い合わせ先】
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