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兄が相続後に別人のように…家族との対話の重要性

公開日:2025-09-22 00:00

目次

■ 相続後の様子、ご存知ですか?

筆者は生命保険の仕事をしておりますので、
これまで様々なご家庭の相続後の様子を目の当たりにしてきました。

生前からトラブルの予感がしているご家庭もあれば
予想外に揉めてしまったご家庭まで実に様々です。

今回は筆者が経験した中で、予想外の出来事が起きた事例についてご紹介します。


■家督を継いだ長男としての責任

被相続人は80代男性。
相続人は4人。
遺言により長男が財産のほとんどを相続しました。

元々家督相続の色が濃いご家庭で、
昔から被相続人である父が子供たちにその旨を伝えていたので、
財産に差がついた相続でしたが揉めることはありませんでした。

しかし、ほとんどの財産を相続した長男は、
家長として財産を守ることはもちろん、一族のことは私が責任を持たないといけない
という強い責任感から、その後
独身の弟に対して強くあたるようになりました。

その弟は居酒屋を営んでおり、
料理を作るのも、常連のお客様との会話も大好きなため
いつも楽しそうにしていたのですが──長男は父の死後、
「ちゃんと結婚して地に足をつけて生活しろ」と言うようになりました。

あまりの長男の変貌ぶりに
弟は「なぜいまさら?」と驚いたそうです。


■ 俺がなんとかするんだ

弟は居酒屋を開業したての頃、
資金繰りに困って何度か父にお金のことで相談していたことがありました。

開業当時のことを兄も知っているので
「地に足をつけて生活をしろ」と言っているのかもしれませんが、
今はお店も軌道に乗っており、父への借金も生前に返済が完了しています。

それに「早く結婚しろ」と言われても弟はもう50代。

結婚を考えた時期もありましたが、
今は生涯独身を貫く決意があるそうで、
何度それを言っても長男は聞き入れてくれません。

まるで親のような立場で弟にあたるため、
ほかのきょうだいも
「おにいちゃん、もう好きにさせてあげなよ」
と苦言が出ていましたが

「お前たちは分かってない。俺が弟をなんとかしなきゃいけないんだ
と聞く耳を持ちませんでした。


■ 突然の入院

2年後、長男が入院することになったと連絡がありました。
原因は精神疾患でした。

財産を相続した後、長男は一族のことを熱心に考えてきましたが、
「押し付けがましい」とか、
「気持ちはありがたいけど、そこまでしなくてもいいのに」と
きょうだいは思っていたようで、
目に見えて空回りするようになり、次第に孤立していきました。

本人の真面目な性格もさることながら、
「家長としてこうあらねばならない」という信念が
よりプレッシャーに
なったのでしょう。

長男の症状は比較的重いため、
今後の財産管理にも支障をきたす可能性がありました。


■ 相続後の「すれ違い」を防ぐために

民法906条にはこんな条文があります。

遺産の分割は、遺産の属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」

家督相続が悪いということでは決してありませんし、
均等に分けることがまた良いということでもありません。

相続時に円満であっても
結果的に長男の人生は変わってしまったことを目の当たりにして、
筆者は相続の難しさを改めて知りました。

被相続人の生前、そして相続発生後から一貫して担当をしている筆者から見て、
「もっとこうしておけばよかったのでは」ということがあるとすれば、
家族との対話であろうと考えます。

被相続人である父や、財産を継いだ長男の想いは十分家族に伝わっています。

しかし、それはどこか一方通行に思えました。

もし双方向な「対話」がありお互いに理解し合うことができていれば
もっと違った結末があったのかもしれません。

想いを伝えることは大切ですが、「家族との対話」も重要であり、
それが最も大切な相続対策ではないでしょうか。



【筆者プロフィール】

福本 知輝(ふくもと ともき)
福本FP事務所 代表
広島県相続診断士会 会長/寺院コンサルタント
2級ファイナンシャル・プランニング技能士/相続診断士
終活カウンセラー1級/笑顔相続道 正会員
縁ディングノート・プランナー

福本知輝


相続・保険・資産運用の専門家として、西日本を拠点に幅広く活動。特に「寺院コンサルタント」として、お寺関係者からの相談実績も多く、信頼を集めている。

「生前対策」から「相続発生後の次世代への引き継ぎ」までを一貫してサポートすることで、お客様の安心と笑顔を大切にしている"笑顔相続専門家"です。 

また、相続や終活の現場で「縁ディングノート」の活用を提唱し、多くのご家族が前向きに人生と向き合うための支援も行っている。

信条は「安心できる未来づくりのお手伝い」。相談者一人ひとりの思いや背景に寄り添いながら、心の通ったアドバイスを届けている。


【筆者へのお問い合わせ先】
福本FP事務所
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