家の相続は“心”の問題。思い出と財産をどう託すか
公開日:2025-09-08 00:00
目次
■ 親の家を相続したとき
親の家を相続したとき、多くの方が悩むのは「この家をどうするか」です。
現金や預貯金のように数字で割り切れるものではなく、家には家族の時間や思い出が詰まっています。
だからこそ、売るのも残すのも決断が重たく、心の整理がつかないまま時間だけが過ぎてしまうこともあります。
私自身も、相続した不動産の売却を通して、
改めて「家の相続は"心の問題"そのものだ」と実感しました。
■ 相続した不動産の現場から
相続した不動産のご相談に伺うとき、まずお話しするのが仏壇やお墓じまいのことです。
ご先祖様に区切りをつけることは、残された方の心を落ち着かせ、次の一歩を踏み出すきっかけになりますし、
家の中にある仏壇の行き先が決まらないと売却活動がうまく進まないことが多いのです。
続いてお願いしたのは、
壁に飾られた子どもの写真や、学校で書いた習字、賞状といった思い出の品々をしまうこと。
これらは金銭的な価値はなくても、家族にとっては人生の大切な記録そのものです。
新しい家を探しに来た方に不用意に個人情報を見られないようにする配慮の意味もありました。
また、家の中には掛け軸や骨董品もありました。
「もしかして価値があるのでは?」と不安に思い、実際に査定に出したところ、まとめて4000円という結果。
「それほどの価値はない」と分かったことで、かえって気持ちが軽くなり、次に進めることもあります。
さらに、お爺さんが生前に受け取った金杯や銀杯も出てきました。
これはご家族にとって誇りや思い出の詰まった品だったので持ち帰っていただきましたが、賞状は処分しました。
「心の価値」と「金銭的価値」をどう切り分けるか――
その判断はとても難しく、残された人にとっては大きな心の作業です。そして今回の家には、納屋での自死という重たい出来事もありました。
奥様は長い間、それを口に出せずに抱え込んでこられましたが、ようやく「実は…」と話してくださったときの表情は忘れられません。
それだけ“家の出来事”は心に深く残るのだと、改めて感じました。
この地域では決して珍しくないケースですが、そのご家族の痛みは計り知れません。
最終的に納屋は解体して引き渡すことになりましたが、それも一つの“区切り”だったのだと思います。
こうして振り返ると、片づけとは単に家をきれいにする作業ではなく、
ご家族が過去と向き合い、未来へ進むための心の整理そのものだと感じます。
■ 気づいたこと
家財や記念品だけでなく、相続では「見えにくい財産」も残されます。
ネット銀行やネット証券の口座は通帳がなく、ログイン情報が分からなければ存在すら気づかれません。
株式や投資信託も、何のために買ったのか、売っていいのか、本人の意図が分からなければ家族は迷ってしまいます。
「老後資金のために長期保有するつもりだったのか」
「短期で売る予定だったのか」
たった一言でも意図が残されていれば、家族は安心して判断できます。
そして何より大きな財産である「家」。
これこそが一番、残された人を悩ませる存在です。
売っていいのか、誰かが住むのか、残すのか――。
答えが分からずに放置され、固定資産税や管理の負担だけが積み重なっていくケースも珍しくありません。
だからこそ、エンディングノートに「この家をどうしてほしいか」を書き残してほしいのです。
「売っていいよ」
「誰かに住み継いでほしい」
「管理できないなら処分してほしい」
ほんの一言でも、それがあるだけで家族の迷いは大きく減ります。
■ 早めに自身の想いを形にするには
相続の現場で一番大きいのは“心の問題”です。
どんなに立派な財産でも、意図が伝わらなければ家族は迷い、時に対立してしまいます。
エンディングノートに「家をどうするか」「財産をどう扱ってほしいか」を書き残すことは、残された人への大きな助けになります。
ただし、もし本当にご家族に迷惑をかけたくないのなら――
想いを法的に形にできる「遺言書」 で残すことが、一番確実な方法です。
相続のやり方は、ご家族の数だけ違います。
早めに専門家へ相談し、自分に合った形を選んでおくことが、残された人への最大の思いやりになるのです。
【筆者プロフィール】
稲場 晃美
R55不動産✕相続の専門家
株式会社 高田デザインスタジオ 代表取締役
港区を中心に城西エリアの住み替えや、賃貸アパートの相続・承継をサポートしています。
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