特別代理人が必要なケースとは?相続手続きや終活での具体的な活用方法
公開日:2025-02-17 00:00
目次
■ 相続人に未成年の子がいると相続手続きが進まないのはなぜ?
相続というと、多くの人が「家族で遺産を分ける手続き」と考えるでしょう。でも、いざ自分が当事者になると、「何から手をつければいいの?」と戸惑ってしまうものです。
特に、相続人の中に未成年の子がいる場合は、通常の遺産分割協議とは違った配慮が必要になります。
例えば、夫(父)が死亡し、妻(母)と未成年の子が相続人となるケース。
妻は、子の親権者ですから、子の代理人として手続きを進められそうです。ところが、妻自身も相続人であり、親と子の間で利害が対立する関係にあります。
このような場面で登場するのが、「特別代理人」です。法務局や金融機関は、未成年の子に代わる特別代理人がいないと、相続の手続きに応じません。
この記事では、特別代理人が必要になる場面や、どんな手続きが必要なのかを解説していきます。
■ 特別代理人が必要になるケース
特別代理人は、未成年の子や判断能力が不十分な人の利益を守るために、家庭裁判所が選任する人のことをいいます。
選ばれるのは、弁護士や司法書士、士業ではありませんが相続コンサルタント、場合によっては信頼できる親族などです。
相続手続きの中で、「特別代理人」が必要になる場面は、代表的には、以下のようなケースがあります。
①
未成年の相続人がいる場合
例えば、夫Aが亡くなり、妻B、未成年の子Cが相続人だったという場合です。
Bは、被相続人の配偶者という立場と、Cの親権者という立場の両方を兼ねていることになり、利益相反の関係に当たります。
仮に、Bが「Aの遺産はすべて自分が相続する」と決めてしまえば、Cの相続分が少なくなります。
こうしたケースでは、Cの相続権を守るために、特別代理人にCを代理してもらい、遺産分割の手続きを進める必要があります。
② 後見人が関与する相続の場合
成年後見人が相続手続きに関与する場合も、特別代理人が必要になることがあります。
例えば、母Dが亡くなり、認知症の父E、成年後見人Fがいたとします。成年後見人Fが、D・Eの子である場合、やはりFは被相続人の子という立場と、Eの成年後見人という立場の両方を兼ねていることになり、利益相反の関係に当たります。
後見人は本来、被後見人の利益を守る立場にありますが、自身が相続人となると、自分の利益を優先してしまう可能性があるため、Eの利益を守る特別代理人が必要となります。
■ 特別代理人の選任手続き
特別代理人は、親権者や利害関係人が申立人となって、家庭裁判所に申請をして選任されます。
家庭裁判所への申立ては、遺産分割協議の前に行う必要があります。特別代理人が選任されるまで遺産分割協議を進めることはできないため、できるだけ早めに手続きを進めることが大切です。
申立てには、申立書類、未成年者や親権者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票、利益相反や利害関係を証明する資料などが必要になります。また、遺産分割協議書の文案も必要となります。
家庭裁判所は、提出された書類をもとに審理を行い、特別代理人を選任するか、誰を選任するかを判断します。申立人が特別代理人候補者を推薦することもできますが、裁判所が適任でないと判断すれば別の人物を選任することもあります。
親族が選ばれることもありますが、場合によっては弁護士や司法書士・相続コンサルタントといった専門家が特別代理人となることもあります。
裁判所が特別代理人を選任すると、その旨を記載した「審判書」が発行されます。これにより、選ばれた特別代理人は正式に相続手続きに関与することができるようになります。
■「親なきあと問題」での活用場面
この特別代理人の制度は、「親なきあと問題」でも活用されます。
親が亡くなった後、障害のある子どもが生活上の課題に直面する諸問題を総称して「親なきあと問題」といいます。
子が未成年者である間は、親は親権者として子の身上監護・契約などの法律行為を代理することができます。しかし、子が成人年齢に達すると、親権者ではなくなってしまい、代理権を失うこととなります。
この課題を解消するための方法として考えられるのが、子が未成年であるうちに、親との間で任意後見契約を結んでおくという方法です。
子が未成年の間に、親との間で任意後見契約を結んでおいて、子が成年になった後は、任意後見人という立場から、引き続き、子の身上監護・契約などの法律行為を代理するという解決策です。
子が未成年であるうちに、親との間で任意後見契約を結ぶ必要がありますが、この場合にも特別代理人の選任が必要となります。
例えば、父G、母H、子Iがいたとします。
Gを受任者とする任意後見契約を結ぶ場合、Gは受任者であり、かつ、委任者Iの親権者という両方の立場を兼ねることになり、利益相反の関係に当たります。
そこで、父Gを受任者、母Hと特別代理人JがIの親権者として任意後見契約を結ぶ必要があります。
同様に、母Hを受任者とする場合にも、Gと特別代理人JがIの親権者として任意後見契約を結ぶ必要があります。
■相続手続を複雑化させないために
相続は、家族の大切な財産を次の世代へと受け継ぐ重要な手続きです。しかし、相続人の中に未成年者や判断能力の不十分な人がいる場合、その権利を守るために「特別代理人」を適切に活用することが重要となります。
また、未成年の子がいる場合でも遺言書作成の重要性が叫ばれているのは、こういった手続きの負担を軽減するためです。
相続対策は、「私には関係ない」「いつか、考えればいい」と後回しにしがちですが、実際に相続が発生してからでは、手続きが複雑になる可能性があります。
「相続は家族の未来への準備」と考え、早めに計画を立てておくことが、笑顔相続への第一歩です。
- 【筆者プロフィール】
- 大石 誠(おおいし まこと)
- 「相続とおひとりさま安心の弁護士」
- ・弁護士(神奈川県弁護士会所属)
- ・平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
- ・笑顔相続道®正会員
- ・縁ディングノートプランナー
横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。
遺言、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応しています。
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