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心の請求書と領収書

公開日:2024-09-30 18:10

目次

●お仏壇に手を合わせて感謝する

9月22日は秋分の日で、お彼岸の中日でした。年に何度かのお墓参りをされた方も多かったのではないでしょうか。筆者の寺院やお墓にも遠方からお参りに来られた方の姿が見られました。

久々にお会いする方に近況を聞くと「出かける時には、お内仏(お仏壇)に行ってきますと手を合わせて、帰ってきたら夕方に、今日も一日無事に過ごせました。ありがとうございました。と感謝のお念仏を申し上げています。」とおっしゃる方がいました。

一見すると毎日、仏様に向かわれて素晴らしいように思えますが、筆者が気になったことがあります。

●条件付きの感謝をしていないか

筆者が気になったのは「今日も一日無事に過ごせました。」という点です。もし「行ってきます」と手を合わせて病院に行って大病が見つかったり、帰り道で交通事故に遭って骨を折ったりしても「ありがとうございました。」と手を合わせることが出来るでしょうか。

今回お寺に来られた方にそのようにお尋ねすると「そうなったら感謝の言葉は言えない。」とおっしゃいました。

ということは、感謝を述べているようでありながら、そこには「今日も一日無事に過ごせた。」という条件がついているのです。手を合わせた仏様に対して条件付きの感謝をされています。

あなたは、もし条件となっている「無事」というお願いが果たされなかったら、手を合わせることができるでしょうか。

●「お母さんの請求書」

元々の作者は諸説あって明らかではありませんが、下村湖人が翻案したり、道徳の教科書に採用されたりしている「お母さんの請求書」というお話があります。

小学生の息子が朝食の際に、市場へおつかいに行ったり留守番をした項目を挙げて、お母さんに請求書を出すと、お母さんはニッコリと笑ってその金額を出します。

夕方になり、息子が夕食の前にお母さんからの請求書を受け取ります。病気になった時の看病代や今日までのお世話代が項目として挙げられていますが、全て「無料(ただ)」と書いてあります。

息子は泣きそうになりながらお母さんに抱きつき感謝したというお話です。

息子はお母さんに対して自分がしたことを請求書として出しました。一方でお母さんは息子に対してしてきたことを何も請求しませんでしたが、息子自身はお母さんから自分が気付いていない沢山の愛情を受け取っていたのだと感じました。息子はお母さんからゼロ円の請求書を受け取りましたが、むしろお母さんから既に様々なことを受け取っていると領収書を出すような気持ちになったのです。

●請求書を出す自分に気付き、既にいただいているものへの領収書を感じる。

私たちは仏様に対してお参りした、お念仏したといって項目を挙げて、私にとって都合が良いことが起きるようにと請求書を出してはいないでしょうか。

仏様は私たちを救うための条件を付けることなく、他人と比較せず、懸命に生きている姿のままでよしと受けとめてくださいます。その無償の受けとめがあるからこそ、日々の生活を安心して頑張ることが出来るのです。仏様は何も請求もされませんが、私たちは無償で受け取っている大きな愛に気付かず過ごしてしまっており、領収書を出すことも忘れてしまっているように感じます。

仏様だけでなく、両親や祖父母なども、私たちに様々な願いをかけて陰に日向に支えてくれていたはずですが、これもまた当然のように感じてしまっています。

このことはいくら気を付けていて、口や態度には出なくても、私たちの心に起こってしまうことです。日々自分を振り返って、そうした気持ちが起こっていることを改めることができれば良いですが、なかなか出来ません。

だからこそ、お彼岸など仏事に関わる季節に合わせて、仏様や両親・祖父母が入っているお墓に手を合わせ、請求書を出して自分への見返りを求めてしまっていないか振り返り、既にいただいていることへの領収書を感じる機会としていただきたいと思います。

筆者プロフィール

吉武 学(よしたけ まなぶ)

饗󠄀庭山法泉寺(真宗大谷派) 住職
吉武学行政書士事務所 代表
一般社団法人相続診断協会パートナー事務所
相続診断士
笑顔相続道®正会員
縁ディングノートプランナー
行政相談委員(総務省)
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