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「人生の邪魔と感じるものによってむしろ自由を感じられる」

公開日:2024-07-08 06:00

目次

「終活」を始めるのは気が重い?

「終活」という言葉を聞くと、「死ぬための準備」「連れ合いや子どもたちに迷惑をかけないためにすること」といったネガティブな印象を持たれている方がいらっしゃいます。

特に自分が「老い」る中で介護や後見が必要になったり、「病気」になって入院して心身が自由に動かせなくなったり、「死」んだあとの手続などを想像すると気が滅入ると言われます。

これまで若いうちは自由に身体を動かし、病気をほとんどせず、罹ったとしてもすぐに治って、明日が当たり前のようにやってくることを信じていた人にとって、思いどおりにならないことをできるだけ避けて、排除しようとする気持ちは分かります。

しかし「老い」も「病気」も「死」も人間であれば避けることは出来ませんし、終活はむしろこれらを受けとめて気持ちを自由にするための活動です。

「さわり」という演奏法

筆者が体験したエピソードをもとにご説明します。

雅楽の演奏会に参加したところ、開演前に演奏者から楽器の特徴や演奏法についての説明を聞くことが出来るワークショップがありました。

琵琶や三味線の演奏法に「さわり」と呼ばれる、独特の弦の振動といくつかの音が混じり合った音色を出す技法があります。さわりを付けた演奏と付けない演奏を比較して聴かせていただきましたが、さわりを付けた方が主となる音が隠れるような気がして、むしろ邪魔ではないかと感じました。

しかし、演奏者からは、主となる音だけを単音で正確に演奏するだけでは幅のない音楽になり、また少しの音のブレも許容されなくなる。主となる音を邪魔するかのように様々な音が響くことで、むしろ多様なふくらみのある自由な音色になると説明いただきました。

無駄を無くそうとすると失敗も許せなくなる

私たちは人生を無駄なく、効率よく、失敗がないように、幸せだけを集めようとしています。しかしそれは、雅楽で単音だけを正確に弾こうとするようなものです。毎日の生活を機械になったかのように無駄をそぎ落とし、タイパ(※)と言ってはスケジュールを詰め込み、僅かなミスも許さないものにしてしまっています。そのため、少しでも失敗があれば不幸だと感じてしまいます。

また、最近では親子関係や親族関係、地域の人との関係を煩わしいものと感じ、特に葬儀を簡略化して親族や近所の方にも参列してもらわない、ごく身内だけの式にする様子が見られます。これも煩わしさは少なくなるかもしれませんが、周りの人との関係が薄れ孤独を感じる人が増えている原因となっているように感じます。

※タイパ…タイムパフォーマンスの略。費やした時間に対する満足度の度合いを示す言葉。効率的に時間を使って満足感を得ることを「タイパがよい」「タイパが高い」と表現する。

避けることの出来ない「さわり」を感じた時が「終活」のスタート

私たちの人生で成果に直結しないもの、回り道になるもの、家族親族、ご近所関係など思いどおりにならないものは「さわり」になります。このさわりがなくなり何もかも思いどおりになれば幸せになると考えてしまいます。

自分が思うままに過ごせる時は、自分自身のことを振り返りませんし、自分を理解することもありません。「老い」「病気」「死」や「親族」「近所」との人間関係はいずれも私たちが避けることができないさわりです。そのさわりを感じることがあった時、極論を言えば「あと半年の命です」と言われて初めて、これまでの自分、現在の自分を振り返り始めます。そして自分というものを問うていき、自分を尋ねるのです。そこで得られるものは雅楽の演奏と同じく、邪魔だと感じていたものによって人生の幅が広がって、多様性がある人生の姿です。

「老い」「病気」「死」や人間関係などの「さわり」を感じた時、その時が「終活」のスタートの時ですし、さわりに気付くことで自分の人生のふくらみや自由を感じることができるのです。

終活を始めることで、あなたのこれまでの人生が、様々な関係性の中で築き上げられた豊かなものであったことが確認できますし、これからの人生もまた豊かに自由を感じて過ごせるのだと理解できるでしょう。

筆者プロフィール

吉武 学(よしたけ まなぶ)

饗󠄀庭山法泉寺(真宗大谷派) 住職
吉武学行政書士事務所 代表
一般社団法人相続診断士協会パートナー事務所
相続診断士
笑顔相続道®正会員
縁ディングノートプランナー
行政相談委員(総務省)
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