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効率と感情

公開日:2024-09-23 06:00

目次

●はじめに●

ファイナンシャルプランナーの仕事をしていると資産運用のこと、保険のこと、相続のことなど。実にさまざまなお悩み相談を受けます。どんなことでもお金がつきまといますので、ファイナンシャルプランナーの仕事を集約すると「お金の問題の専門家」であると言えます。

さらに踏み込むと、お金が「足りるのかどうか」という問題と、「どうすれば効率よく使えて、バトンタッチできるのか」という問題とも言えますし、実際に相談者の方が期待されるのもこの点が多いと思っていました。

しかし筆者は最近思いました。「本当にこれで良いのだろうか」と。

●実際の現場にて●

筆者が一部の生命保険を担当している70歳の自営業の男性のお客様(T様)から資産運用の相談を受けました。たくさんの生命保険の他に2億円近い預貯金。収益用の不動産もありその収入も毎年1,000万円以上あります。奥様に先立たれ、お子様は県外で就職しているので、立派なご自宅には一人で住んでおられます。

資産運用よりも相続の生前対策が必要なのではないか、とも思いましたが、筆者は次の言葉を聞いて驚きました。

「お金がないのが不安なんです」

どういうことか詳しくお聞きすると、

「妻も私のせいで早くに亡くなり、子供たちは出て行った。不満があったから家族がいなくなったのだと思う。お金がもっとあれば家族も不満に感じなかったのだと思う。もっと多く子供たちにお金を用意したい」

そんなことをお話しされました。壮絶な過去もあり、ここで書ける内容ではないため詳細は控えますが、恐らくT様の資産が10倍に増えたとしても、きっとこの不安は消えないだろうと思いました。

人の心をバケツだとすると、バケツに穴の空いた状態で「お金」という水を注いでも無意味なのです。

T様が担当の税理士に相談すると、「お金を増やす必要はない。不動産を買うか、現金を子供に贈与しなさい」と延々と節税プランを聞かされうんざりしたと同時に「自分のことを全然見てくれなかった」と悲しい気持ちになったそうです。

●筆者から●

一方で筆者は「Tさんはお金が増えることで、ご家族が満足されると思われているから、お金を増やしたいと思われているんですね」とあえてお聞きしました。すると

「そうなんです。娘のところは二人目の子供が生まれたけど、全然帰省してこない。息子も私の跡を継いでくれない。私の仕事がうまくいってないからなんだと思う」と寂しい心情を吐露されました。

これを聞くとTさんが真に欲しているのはお金ではなく、「家族とのつながり」なのではないか、と思いました。「お金があれば家族とのつながりが回復する」と思っていたのかもしれません。

その後、T様の二人のお子様にお会いする機会を頂きました。

息子さんは「父の跡を継ぐつもりで修業に出ましたが、私はそれより別のやりたいことを見つけたんです。でも気弱な父はショックを受けると思いなかなか言い出せなかったんです」と言われ

娘さんは「子供がまだ小さくなかなか帰省は出来ない。お父さんはもう十分私たちのために尽くしてくれたし、お母さんが亡くなってつらかっただろうから、私たちのことはいいから自由に幸せに生きてほしい」と言われました。

お子様は二人とも遠く離れたお父様のことを想う優しい人たちで、ただコミュニケーションがなくすれ違いが続いていただけだと感じました。

●家族水入らず●

筆者からお二人に「今度法事があるそうですね。たまには一、二泊してゆっくりそのことをお父様とお話しされてみてはいかがでしょうか?」とお伝えしたところ、揃って帰省されることになりました。

法事のあと1週間ほどしてT様にお会いしたところ「今すぐには無理だけど、自分の仕事をあと数年で廃業して、息子たちの近くに引っ越すかもしれない」と言われました。

お子様たちは関東に在住で、「どのあたりに住もうか」、「子供や孫たちも集まれる家だとどのくらいかかるだろうか」、「次は正月に孫たちと旅行に行くんだ」などとても楽しそうでした。また資産運用だけでなく、今後の相続対策にも改めて相談に乗ってほしいと依頼がありました。

●おわりに●

今後の相続対策がどうなっていくかはまだこれからです。もしかしたら結果的に最初の税理士と同じ「不動産購入」や「生前贈与」を行うのかもしれません。

しかし、最初と確実に違うのはT様の「感情」です。少なくとも最初の時と比べると心のバケツの穴は小さくなっているように感じましたし、きっと今後の対策は血の通ったものになるでしょう。

資産運用にせよ、相続対策にせよ大切なのはあなたの「感情」です。どうすべきかではなく「どうしたいのか」の答えはご自身の中にあります。

そしてそれは非効率なものであるかもしれません。非効率であればあるほど、特に専門家は「善意から」口を出したくなることもあります。これは筆者自身の戒めでもあります。

あなたが本当に大切にしたいものは何でしょうか。今回の高橋さんのケースのように、大切なものは効率の中には見つからないのかもしれません。

【筆者プロフィール】

福本 知輝(ふくもと ともき) 

福本FP事務所 代表
広島県相続診断士会 副会長
寺院コンサルタント
2級ファイナンシャルプランニング技能士
相続診断士
笑顔相続道正会員
終活カウンセラー1級
縁ディングノートプランナー

西日本を中心に一般の方だけでなく寺院向けの生命保険、資産運用のご提案、相続相談業務を行っています。お金の心配事をなくし、心を軽くするお手伝いを致します。

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