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ほっとけない、離れて暮らす軽度認知症の母 意図せず起こる賠償事故に備えたい

公開日:2024-08-12 06:00

目次

2023(令和5)年度国民生活基礎調査 65歳以上の者のいる世帯の世帯構造の年次推移(以下図)から見ると38年前の昭和61年は、3世帯で暮らしている世帯は44.8%ありましたが、核家族化が進み昨年2023(令和5)年は7%にまで減り、単独世帯と夫婦のみの世帯の合計が63.7%と65歳以上の方の暮らし方が大きく変化しています。

2023(令和5)年国民生活基礎調査 性・年齢階級別にみた65歳以上の者の家族形態(下図)を見ると、70代以降の年代は、女性の単独世帯が多く、高齢になるほど女性のおひとりさま世帯が増えており、80歳以上となると、女性のおひとりさま世帯は34.8%です。

親が高齢となり単独世帯となっている場合、認知症についても気になるところです。下図(厚生労働省の第222回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料の資料1認知症への対応力強化)のデータから見て、女性は特に80歳を超えてくると、認知症の有病率が高まる方向にあります。

離れて暮らす軽度認知症の親が起こす賠償に備えたい

先日、筆者は東京方面のファイナンシャルプランナー(以下FPと表記)から依頼を受け、関西方面の火災保険の引き受けを行いました。

保険料を負担する契約者の長男は関東で暮らしており、関西で単身で暮らす母の実家の火災保険の引き受けができるかとの問い合わせを受け、引き受けさせていただきました。

契約者(長男)は、関東で家庭を持って暮らしており、関西の実家では高齢のお母さまがお一人で暮らしておられるとのこと。高齢のお母さまに軽度の認知症状が出ていることに気づき、FPのアドバイスもありお母さまの暮らすご自宅を含めて家族信託をされたとのことでした。

アドバイスをしたFPが家族信託の内容確認を進めていく中で、実家に火災保険が契約されていないことに気づき、筆者に連絡をいただきました。

契約者となる長男に火災保険の加入に関する意向を伺うとポイントは以下でした。

  • 実家の建物への損害はあまり気にしていない。
  • 保険料は抑えたい。
  • 軽い認知症を患っているお母さまがうっかり火事を起こして近隣に迷惑をかけることや、日常生活の範囲で他人に意図せず、誤ってケガをさせたり、他人の物を壊したり損害を与えてしまうようなことが気になる。

③への備えに強い意向があるので、特約で「類焼損害補償」と「個人賠償責任補償」をセットすることをおススメしました。

個人賠償責任補償とは

次の①~③の偶然な事故により、他人に対して法律上の損害賠償責任を負担することによる損害または被保険者が軌道上を走行する陸上の交通用具の運行不能について法律上の損害賠償責任を負担することによる損害に対して、保険金が支払われるものです。

  • 被保険者の居住の用に供される住宅の所有、使用、管理に起因する偶然な事故
  • 被保険者の日常生活(住宅以外の不動産の所有、使用または管理を除きます。)に起因する偶然な事故
  • 保管物(被保険者が使用または管理する他人の財物をいいます。)の損壊、紛失、盗難

個人賠償責任保険は、単独で契約することもできますが、自動車保険や火災保険、傷害保険などの特約でも加入することができます。

個人賠償責任保険で保険金支払いの対象となる損害や主な費用は以下のとおりです。

  • 被害者に対する損害賠償金(治療費、修理費、慰謝料など)
  • 弁護士費用、訴訟になった場合にそれに要する費用、調停・和解・仲裁の場合にそれに要する費用

認知症の方の場合の具体的なケースとしては、暴れて介護スタッフなどにケガをさせてしまった、買い物先やレストランなどで排せつが上手くいかずに椅子などを汚してしまった、他人のものを持ち出して壊してしまたなどのケースが考えられます。

類焼損害補償とは

自宅からの失火で他人の住宅や家財が類焼し、類焼先の火災保険で十分に復旧できない場合や類焼先が火災保険を契約していない場合などに、法律上の損害賠償責任の有無にかかわらず再調達価格を基準に不足分を保険金としてお支払するものです。

自宅の火災の消火活動により隣家を水浸しにしてしまった、ご近所に延焼してしまったなどの場合に備えられます。

類焼損害補償は、火災保険の特約としてしかセットすることはできません。この特約は、保険の対象が「建物」でも「家財」でもセットすることができます。

特約をセットする時に気をつけたい〔被保険者〕

今回のケースのように契約者が別居している子で、離れて暮らしている親にこれら2つの補償を特約としてセットする場合に気をつけたいのは、保険の補償を受ける方つまり〔被保険者〕です。

今回のように火災保険に特約としてこれらの補償をセットする場合、火災保険の〔被保険者〕は、契約者または、保険の対象の所有者(被保険者と所有者が同一)です。今回のケースでは、建物の所有者は、家族信託により100%長男の持分となっています。そのため「建物」を保険の対象とした場合の被保険者(所有者)は、長男となります。

火災保険の対象を「建物」としてこの「類焼損害補償」と「個人賠償補償」の特約をセットすると、別居のお母さまが起こした失火による類焼損害や日常生活での賠償事故があった場合には補償されません。

被保険者の範囲は以下の通りです。

① 本人(記名被保険者)

② ①の配偶者

③ ①または②の同居の親族

④ ①または②の別居の未婚の子(仕送りを受けている学生など。婚姻歴のあるものは含まれない)

⑤ ①が未成年者または責任無能力者の場合、②~④に該当しない本人の親権者や法定監督義務者、および監督義務者に代わって本人を監督する者(親族に限る)。ただし、本人に関する事故に限る。
⑥ ②~④のいずれかの人が責任無能力者である場合、いずれにも該当しない親権者、その他の法定監督義務者、および監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者(その責任無能力者の親族に限る)。ただし、その責任無能力者に関する事故に限る。

つまり、別居で暮らしている親は、長男が被保険者となる保険契約の被保険者の対象範囲に含まれませんので、親世帯が被保険者となる保険に加入しておく必要があります。

今回のケースで「類焼損害補償」と「個人賠償補償」を有効とするためには、お母さまが所有者であるものを保険の対象とする必要があります。したがって、火災保険の対象は「家財」とし、被保険者(=所有者)にお母さまのお名前を記載し、契約者を長男としました。

保険の加入目的に照らした契約形態

保険の契約では、〔契約者〕と〔被保険者〕という登場人物がでてきます。〔契約者〕は保険料を負担する人。〔被保険者〕は、保険事故が発生した時に補償を受ける人であり、火災保険の場合は、被保険者=所有者です。この〔被保険者〕には被保険者に含まれる対象範囲があります。そして〔被保険者〕対象範囲に、別居の親は含まれないため、契約行為が困難な親の保険を締結する場合には、親を被保険者とする保険に加入する必要があります。保険加入の目的に照らして適切な契約形態で加入するように注意します。

まとめ

核家族化がすすみ高齢の親と同居している世帯が少なくなっています。今回のケースのように高齢の親の認知機能や契約行為に不安がある場合に、離れて暮らす親が他人のものを壊したり、ケガをさせたり、失火で隣家に類焼損害を与えた場合の補償を備えておきたいという場合には、火災保険の対象を「家財」として、〔契約者〕:子、〔被保険者〕:親として、「類焼損害補償」と「個人賠償補償」の特約をセットするようにしましょう。

大北 あかり(おおきた あかり)

スッキリ笑顔を増やす 年金が好きなファイナンシャルプランナー・相続コンサルタント

人生とお金(ライフプラン)の相談、相続・死後についてのお悩み相談に対応。ヒアリングからの現状把握を大切にし、難しい専門用語を使わずに、図やイラストを使って現状を見える化することで相談者さんと課題を共有しながらコンサルティングを行っています。

(保有資格)AFPⓇ、公的保険アドバイザーⓇ、相続診断士Ⓡ、損害保険トータルプランナーⓇ、損害保険募集人、生命保険募集人、縁ディングノートプランナー、笑顔相続道正会員

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