カテゴリー検索

今しかできないことを考える

公開日:2024-06-17 06:00

目次

はじめに

厚生労働省の簡易生命表によると、男性が65歳までに生存する確率は89.6%、女性は94.4%となっています。男性であれば約10人に1人、女性であれば約20人に1人は65歳までにお亡くなりになっている計算です。

※厚生労働省 令和4年簡易生命表より

筆者のお客様である大介様(仮名)はご自身が73歳の時、奥様の春子様(仮名)が65歳で亡くなりました。

とても残念なことでしたが、データだけでいえば20人に1人はお亡くなりになっている計算ですので、決してあり得ない話ではありません。

しかし人生100年時代と言われる現代、この年齢で亡くなることを想定している方はほとんどいないと思います。

仕事に打ち込んだ現役時代

大介様は現役時代ほとんど休みも取らず、ただお客様のために誠実にお仕事をしてこられました。子のいない夫婦だったため、春子様は大介様ともっと自由に過ごしたいという気持ちはありましたが、大介様が日々お忙しいのでなかなか一緒に旅行に行くことができず、寂しい思いをされていました。

そんな春子様に報いるためにも大介様は「リタイア後は春子と一緒に旅行三昧で、悠々自適な毎日を送るんだ」と意気込んで仕事に打ち込まれました。

しかし責任感の強い大介様は、なかなか仕事を引退することができず、完全に退職できたのは大介様が70歳の時。ようやく待ちに待った悠々自適な生活がスタートしました。

思い描いた未来が変わる瞬間

ところが、幸せな時間は長く続きませんでした。大介様が仕事を辞めて1年が経った頃、春子様ががんと診断されました。最初は肺がんでした。病状はすでにかなり進行しており、入退院を繰り返していたら今度は別の部位にもがんが見つかりました。そして最初のがん発見から2年後、65歳で春子様はお亡くなりになりました。

大介様は「こんなことになるなら、もっと春子との時間を大切にしておけばよかった」とひどく落ち込まれました。しかし今度は追い打ちをかけるように大介様が肺気腫を患い、外出が難しい状況になってしまいました。

酸素なしでは生活が出来なくなり、外出時は重い酸素ボンベを持ち歩かなくてはならず、次第に行動範囲は狭くなっていきました。

ついにはご自宅からほとんど出られなくなり体力はどんどん落ち、それに伴い精神的にも落ち込んでいきました。

現役時代、将来を信じて地道に遊ぶことなく働き、老後に向けてかなりの額を貯めることが出来た大介様でしたが、その老後を楽しめたのはたった1年しかなかったのです。

「金がいくらあっても病気だから使えないし、一緒に過ごす相手もいないから何の意味もない。こんなことになるのが分かっていたなら若い時にもっと春子と使えば良かった。早く死にたいよ。でもワシが死んだらどうなるんだ?」

このまま何もしないとどうなるのか?

大介様は「全財産を妻の春子に、春子が先に亡くなった時は姪の恵に」という内容の遺言を作成しておりました。姪の恵様は、子のない大介様と春子様にとって娘のような存在です。春子様は亡くなってしまいましたので、何もしなければ遺言どおり恵様に財産を残せます。

しかし恵様は春子様の歳の離れた姉の子にあたり、60歳近いご年齢でしたので、 

「人生何が起こるか分からない。もし恵がワシより先に亡くなったらどうなるのか」と大介様はおたずねになりました。この場合、遺言の内容は実現せず、法定相続となります。

大介様は7人きょうだいでした。このままだとご自身のきょうだい、あるいはその子に財産が相続される可能性があることをお伝えすると、強い抵抗感を示されました。

親が亡くなった時に相続できょうだいと揉めた経験があり、1円も渡したくないということでした。

遺言の作成

ここからは司法書士にも打ち合わせに参加してもらいながら話をすすめました。

恵様には娘の愛子様がおり、大介様とも交流があったことから、

「全財産を恵に、恵が大介より先に亡くなった場合は愛子に」のこす内容とし、恵様の体調が悪くなることに備え、遺言執行者は恵様と愛子様とすることにしました。

加えて付言事項についても紹介しました。付言事項とは、法的拘束力はないが、恵様に自分の気持ちを伝えることが出来るいわば「お手紙」のようなものです。

しかし大介様は「それは今ワシが直接恵に言えばいい。死んでからじゃ出来んよな」とお断りになりました。

実は遺言作成の直前、今度は大介様にもがんが見つかったのです。幸いただちに命にかかわることはありませんでしたが、心境の変化があったようです。

元気なうちにやれること

大介様の後悔は、現役時代に春子様との時間を過ごせなかったことでした。仕事はもちろんですが、春子様との時間もまた元気な現役時代にしかできないことだったのです。

万一病状が悪化してからでは出来なかったかもしれないので、今回の遺言作成もまた今しか出来ないことだったと言えます。

大介様は遺言作成を終えて、「人間出来るうちにやらないと後悔するんだなあ」としみじみ語られました。

終わりに

65歳までに男性は10人に1人、女性は20人に1人亡くなるというデータがありましたが、「やりたいことができない」という意味では死亡だけでなく病気やケガも人生を楽しめなくなる要因になり得ます。

そう考えると、今生きている人生はとても「有り難い」ものだと思えます。だからこそ楽しむこと、今やれることを先送りしないこと。そして確率を0にできない以上、万一のことに備え今やれることをしておくというのは、人生のどのステージにおいても大切であることを大介様に教えて頂きました。

筆者はお客様がエンディングノートを書くサポートをする時、生命保険のご提案をする時によく「自分の命があと10分しかなければ何を伝えたいですか?」、「あと1年の命と分かったら何がしたいですか?」とお聞きします。

親や配偶者に感謝を伝える方、家族と旅行に行きたいと言われる方、美味しいものを食べたいと言われる方。

人それぞれいろんな答えがありますが、よく考えるとそれってほとんどが今でも出来ることではないでしょうか。

福本 知輝(ふくもと ともき) 

福本FP事務所 代表
広島県相続診断士会 副会長
寺院コンサルタント
2級ファイナンシャルプランニング技能士
相続診断士
笑顔相続道正会員
終活カウンセラー1級
縁ディングノートプランナー

西日本を中心に一般の方だけでなく寺院向けの生命保険、資産運用のご提案、相続相談業務を行っています。お金の心配事をなくし、心を軽くするお手伝いを致します。

【問い合わせ先】
〒730-0051
広島県広島市中区大手町1丁目1番26号大手町一番ビル305
福本FP事務所
Mail  tomoki@fuku-fp.com