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「税務と法務の交錯点」

公開日:2024-06-10 06:00

目次

1、はじめに

よくあるご相談の一つに、「遺留分の対策をしたいです。生前贈与は過去7年分が遺産に加算されると聞きました。どのように遺留分の対策をしたら良いでしょうか」というものがあります。

民法の知識と、相続税法の知識が混じってしまったために、このようなご相談に至ったのだと思います。

上記の例に限らず、民法の世界と相続税法の世界とでは、ルールが異なる論点がいくつかありますので、今回はその代表例を紹介する内容となります。

2、遺留分と生前贈与

 遺留分侵害額を計算するとき、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」+「贈与した財産の価額」-「債務」=「遺留分を算定するための財産の価額」とされます(民法1043①)。

 「贈与した財産の価額」とあり、贈与した財産が遺留分の計算の前提となる遺産に加算されますが、ここでの贈与は、相続人に対する相続開始前10年間における特別受益(生計の資本としての贈与など)に限られます(民法1044③)。

 平成30年に民法が改正される以前は、この10年間という期間制限はなく、無限定に遺留分の計算の前提となる遺産に加算をされていました。

 「贈与」と「特別受益」の関係については別稿に譲りますが、相続開始前10年間の生前贈与の全部が加算されるわけではなく、特別受益に該当するものに限られます。

これに対して、相続税の世界では、被相続人の死亡から7年以内の生前贈与(暦年贈与)については、被相続人の相続税の課税価格の計算上、贈与を受けた財産の額(ただし、相続開始3年以上前の部分は合計100万円を控除)が加算されます(相法19①)。

 民法における遺留分侵害額を計算するときには、相続開始10年以内「特別受益」が加算されるのに対して、相続税法における課税価格を計算するときには、相続開始7年以内「贈与」が加算されることになります。

3、養子縁組の場合

 養子縁組をした子(養子)の取扱いについても異なります。

 民法では、養子も、実子も、等しく被相続人の「子」ですので、法定相続人となります。法定相続分は等しいので、養子が増えれば増えるほど、子1人当たりの法定相続分も、遺留分の割合も減少します。

 遺留分対策として、遺産の全部を相続させる相続人の配偶者や孫を、被相続人の養子にしているような事例は、こうした狙いによるものです。

 相続税を計算する場合において、基礎控除の額は、「3千万円と6百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額」によって決まります(相法15①)。

条文には「相続人の数」とだけ書かれていますが、実際にはここでの「相続人の数」とは、「法定相続人の数」を意味し、ともすると節税の目的で、できるだけ養子を増やしたほうが良いのではないかとも考えられます。

 しかし、相続税の基礎控除を計算するとき、実子がいる場合には基礎控除に考慮できる養子は1人まで、実子がいない場合には2人までとされています(相法15②)。

 法定相続分、遺留分を計算する民法の世界では、養子は何人でも認められるのに対して、相続税法の世界では、基礎控除が認められる養子の人数には限りがあります。

4、相続放棄の場合

 被相続人の財産を調査した結果、負債のほうが大きい場合、家庭裁判所に対して、相続放棄の手続を取るかたが多いですが、この相続放棄の場面においても、民法と相続税法とで取扱いが異なる部分が登場します。

 相続放棄をすると、相続放棄をした法定相続人は、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」とされ(民法939)、次順位の法定相続人に相続権が移ります。

 その結果、第3順位(兄弟姉妹、代襲相続が発生している場合には甥姪を含む)が法定相続人となり、遺産分割協議の当事者となる法定相続人の人数が増えるということが生じます。

 例えば、被相続人には子が1人、配偶者・両親は先立っており、兄弟姉妹が6人いるというような場合、唯一の子が相続放棄をすると、法定相続人は兄弟姉妹の6人となります。

 これに対して、相続税の基礎控除の計算においては、「相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数とする」とされています(相法15②)。

 あくまでも、被相続人の死亡時(相続発生時)の相続人の人数が基準となりますので、上記の例では、子が相続放棄をしていたとしても、相続人は1人という前提で基礎控除の額が計算されます。

 遺産分割協議の当事者を確定し、法定相続分を計算する民法の世界では、相続放棄がされると、相続放棄をした人物は、初めから相続人ではなかったと扱われるのに対して、相続税法の世界では、相続放棄の有無にかかわらず、相続開始時の法定相続人の人数によって基礎控除の額が決まります。

5、生命保険(死亡保険金)の取扱い

 被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の一部の者を保険金受取人と指定して保険契約に基づく死亡保険金は、その受取人固有の権利であり、相続財産に含まれません。

 死亡保険金は、相続財産に含まれないため、遺産分割の対象となるべき財産でもありませんし、遺留分を算定するための財産からも除外されます。

 保険金の金額や、遺産に対する比率、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどを総合考慮して、特別受益に準ずるとして遺産に持ち戻される場合もあり得ますが(最高裁決定平成16年10月29日民集58巻7号1979頁)、原則としては、相続財産ではありません。

 これに対して、相続税においては、相続人が取得した生命保険契約の保険金(死亡保険金)は、みなし相続財産として課税対象となる財産に含まれます(相法3①一)。

なお、死亡保険金だけでなく、入院保険や年金保険、生命保険契約に関する権利(契約者は被相続人、被保険者は被相続人以外の保険に係る解約返戻金相当)も課税対象となります。

 死亡保険金は課税対象となりますが、法定相続人の人数に応じて非課税額が設けられており、非課税額を超える部分については、遺産に対する比率、被相続人と受取人の関係等を検討するまでもなく、課税対象となる相続財産となります。

 死亡保険金が相続財産として把握される条件の有無、その金額(非課税額の有無)といった点でも、民法と相続税法とでは異なります。

6、おわりに

インターネットを検索すると手軽に欲しい情報にアクセスできる反面、アクセスした情報の信頼性や、アクセスした情報が本当に欲しい情報だったのか(実は間違えた情報を勘違いしていないか)を見極めることが大事だと感じます。

今回は、代表例をいくつか挙げましたが、その他にも相続財産の評価の基準時、死亡退職金の相続財産該当性など、民法と相続税法とで取り扱いが異なる論点が存在します。

自身が必要としている情報が、民法の場面なのか、相続税法の場面なのかによって、必然的に問い合わせるべき専門家も異なります。

ご自身が必要としている情報、解決したい課題を「誰に聞いたら良いのか分からない」と感じたら、全国の笑顔相続サロンや、当コラムの各執筆者など、ぜひお気軽にお問い合わせください。

【プロフィール】

大石誠(おおいしまこと)

弁護士(神奈川県弁護士会所属)
国税局長通知税理士
笑顔相続道®正会員
相続診断士
「相続とおひとりさま安心の弁護士」
平成元年生まれ 平成28年弁護士登録

横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としています。

遺言、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応しています。

お問い合わせ先
横浜市中区日本大通17番地 JPR横浜日本大通ビル10階 横浜平和法律事務所
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【税法監修】

税理士 千代田悟志(ちよだ さとし)
笑顔相続道®正会員
相続診断士
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千代田悟志税理士事務所
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