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葬儀は私が何を大事にしているか気付く場所

公開日:2024-04-29 06:00

目次

●葬儀の時間がどんどん短くなっている

仏式の葬儀では、宗派や寺院によって多少の違いはありますが、亡くなった日に枕経を行い、数日後に通夜式、その翌日に葬儀式、出棺、火葬を行い、御命日から七日目に初七日を行います。本来の初七日法要は葬儀式から数日後ですが、短い期間の間に繰り返し親族が集まることが難しいことから、近年では火葬直後に初七日を繰り上げて執り行うことが多くなってきました。また、出棺と火葬の後に集まることも難しくなってきたのか、式中初七日と呼ばれる出棺前に葬儀式に引き続いて行われる初七日法要も増えてきました。

最近、筆者が参列する都市部の葬儀では、通夜式を行わず葬儀式と火葬のみの「一日葬」の割合が増えてきました。また、通夜式を行う場合でも可能であれば亡くなられた当日のうちに執り行い、葬儀関係の日程をできるだけ短くしようとする様子が見られます。

ご遺族の方に事情をうかがうと、親族をはじめ参列される方が仕事を何日も休めないことを理由として話されます。平日に行われた年忌法要では、休む日数が一日だけであっても難しいのか、法要に参加したことの証明書を会社に提出するため、住職である筆者の署名押印をお願いに来られた方がいました。

●仕事が人生を支配していないか

終活を始めておられる方に葬儀の規模や内容についてご希望をお尋ねすることがありますが、みんな仕事で忙しいだろうから参列してもらうのが申し訳ない、と近しい身内だけで小規模の葬儀を希望される方がいらっしゃいます。自分の葬儀のために多くの方に時間を割いて集まってもらうことを申し訳なく感じる気持ちは分かります。

しかし、現在の葬儀の簡略化・小規模化は、私たちの生活の中で「仕事」が占める割合が大きくなりすぎていることを示しています。仕事が重要であることは否定できませんが、それが人生の他の大切な部分を圧迫するほどになることには違和感があります。身近な人の死を悲しむ時間すら確保できない現状は、仕事を大事にしているというより、仕事に人生を「支配」されていると言えるのではないでしょうか。

そのため筆者は僧侶の立場から、葬儀は参列される方が亡き人へ祈りや感謝を向けるだけでなく、亡き人を通して自分自身を見つめ直す場、何を大事にしているのか気付く場であると考えており、負担だけを見て葬儀を簡略化すべきではないとお伝えしています。

●葬儀は想いを伝える「想続」の大事な機会

終活にあたっては、自分の葬儀をどのような形で行ってもらうか家族や親族に希望を伝えられると思います。それは単にどこのお寺に依頼するか、どんな形式で行うかということだけではありません。自分が亡くなったことを知らせる相手の一覧を見れば、人生の中でどんな人と関係を築いてきたのか分かります。また、遺影に使う写真や飾る花や式中で語られるエピソードを指定しておけば、どんな思い出を大切にしていたのか分かります。式を準備するにあたっての端々に人生の主要な出来事や思い出が現れてくるのです。


 

 

こうした葬儀の希望を伝えるために有効なのが「エンディングノート」です。法的な効力はありませんが、その代わりに分量を気にせずに詳細に内容や気持ちを書くことが出来ますし、葬儀以外のあなたのライフヒストリーや信条など大切にしていることも遺すことができます。また、エンディングノートにあらかじめ書かれた項目や内容を見ることで、考えがまとまりやすくなったり、大切なことを書き漏らすことが防げたりします。

葬儀という機会を通じて、あなたがこれまでの人生で得た価値観や人生観が周りの人々に伝わり、参列した方や家族は自分自身を振り返る機会を得ます。あなたの死によって始まる「相続」は決して財産だけが受け継がれるものではなく、あなたの葬儀を通して人生で何が大事かという想いが受け継がれることでもあります。想いが受け継がれるという点では「想続」とも言えるのではないでしょうか。

葬儀はお金をかけて大規模に、華美にする必要は全くありませんが、単なる儀式ととらえず、あなたが大切にしてきたものを伝える相続の場であり、それを受け取った人が自分自身を振り返る場であることを意識して、どのような内容にするか希望を書いていただきたいと思います。

吉武 学(よしたけ まなぶ)

饗庭山法泉寺(真宗大谷派) 住職
吉武学行政書士事務所 代表
一般社団法人相続診断士協会パートナー事務所
相続診断士
笑顔相続道®正会員
縁ディングノートプランナー
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