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子どものお父さんは誰?

公開日:2024-04-01 06:00

目次

1 はじめに

親子とは?

血のつながり(血縁)がある関係が「親子」だと思う方もいると思います。

戸籍上で親子の関係にあれば「親子」だとする人もいると思います。

問われる状況によって、「親子」とする根拠は変わるものかもしれません。

さて、相続の場合の「親子」は、法律上の親子を指します。日本では現在、民法上(法律上)の親子関係と、血縁関係が一致することは必ずしも求められていません。つまり、血のつながった父と、法律というルール上で父とされる人が一致しない場合があるのです。

例えば、DNA鑑定で血縁関係がないとされれば法律上の父子関係は取り消せるかが争われた訴訟で、最高裁判所は「(法律上の)父子関係は取り消せない」と判断した(最高裁平成26年7月17日判決)のが、その一例といえます。

今回は、「父と子」に焦点を当てて、2022年4月に改定され、2024年4月1日から施行される新しい民法による、法律上の父子関係についてお伝えします。

2 相続における父と子

まず、相続における父と子の関係で、よく耳にする言葉は「嫡出子」と「非嫡出子」ではないでしょうか。

嫡出子とは、法律上で婚姻関係を結んでいる夫婦の間に生まれた子のこと、非嫡出子とは、法律上で婚姻関係を結んでいない男女の間に生まれた子のことを言います。

嫡出子には、何もせずとも父の相続権が認められますが、非嫡出子は、父から認知されないと父の相続人になることはできず、相続権もありません。逆に言えば、父から認知されれば、父の財産を相続する権利があるということです。つまり、子にとって、自分の父が誰であるのかが確定的に決まっていることは、非常に大きな意味を持ちます。

3 法律上の父子関係を作る、「嫡出推定制度」

自分の父親を確定的に決めるには血縁上の父子関係では不安定です。なぜなら母子の血縁関係は分娩で明らかになりますが、父子の血縁関係を証明することは、困難だからです。近年ではDNA鑑定などの証明方法がありますが、そのような方法がなかった時代に、父子関係を証明することはおよそ困難なことでした。

もし、血縁関係だけが父子関係を法的に成立させる条件としてしまうと、急に父から「おまえは私の子ではない」と言われた場合、子が父子の血縁関係が証明できない場合、法律上父子関係がないとして、父から生活費等の援助が受けられなくなり、子は大きな不利益を被ることになります。

このようなことにならないように、血縁関係の証明を条件とせず、法律で定められた条件を満たした場合に、父子関係を成立させることしたのです。これが「嫡出推定制度」です。[龍岩1] 

4 嫡出推定と無戸籍問題

嫡出推定制度は、生まれてきた子の父が誰であるかを早期に確定させ、子の利益を図るために作られた制度です。しかし、子の利益になるはずのこの規定が、逆に不利益を生んでしまっているという状態にありました。それが無戸籍問題です。

一つ例をあげてみます。夫と離婚した女性が、再婚し、出産しました。この出産が離婚の日から300日以内である場合、生まれた子は前夫の子と推定されるという民法の規定があります。

本当は、再婚後の夫との子なのに、戸籍には前夫が父とし記載されることになります。それを避けるために出生届を出すのをためらうというケースが生じており、これが無戸籍問題と繋がっていました。

子にとって、戸籍が無いという不利益は非常に大きなものであることから、この問題の解消が大きな要因の一つとなり、民法が改正されました。

5 2024年4月1日からは、新しい嫡出推定制度で考える

2024年4月1日に施行される新しい「嫡出推定制度」では、子の父について、新たなルール作りがされました。

(出典 法務省リーフレット https://www.moj.go.jp/content/001413654.pdf

①妻が婚姻中に妊娠した子は婚姻している夫の子と推定
②婚姻前に妊娠し、婚姻後に生まれた子は、夫の子と推定(新規定)
③婚姻後200日以内に生まれた子は婚姻後の夫の子と推定(新規定)
④婚姻後200日経過後に生まれた子は、婚姻している夫の子と推定
⑤離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定されるというルールは維持
⑥前夫の子であるとの推定と再婚後の夫の子であるとの推定が重複する場合(つまり、離婚後300日以内に、再婚・出産したケース)については、子の出生に一番近い婚姻における夫の子であると推定(新規定)

新しい嫡出推定制度では、子の出生が離婚後300日以内であっても、再婚をしていれば、再婚後の夫の子と推定されます。

重要なポイントは、「再婚」していることです。再婚せずに、離婚後300日以内に子を出生した場合は、前夫が子の父と推定され、戸籍には、前夫の子と記載され、その後の法律上の親子関係は、特別な方法を取らない限り、前夫との父子関係が継続されます。

6 まとめ

近年では、夫婦関係も親子関係も、一括りにできない様々な形があります。

また、夫婦間の問題があっても、それは子がどうすることもできない問題です。まして、生まれてくる子は、親子関係を選択することはできません。

法律上の父子の関係については、今回紹介した「嫡出推定制度」のほかにも、「認知」「嫡出否認」「親子関係不存在確認」「養子縁組」など、様々な制度があります。親子の関係は子にとって、生涯にわたって大きな影響を及ぼす可能性があるものです。また、一定期間が経過すると、主張できなくなるものもあります。

親子として共に生活し、想いや財産を引き継いでいく相続においては、後悔のない法律上の父子関係を築いておくことも、大切な選択肢の一つです。法律上の親子関係で困った場合、不安を感じた場合は、できるだけ早く弁護士への相談をおすすめします。

蓮見 倫代(はすみ みちよ)

笑顔相続道正会員
相続診断士
縁ディングノートプランナー
都内法律事務所でパラリーガルとして勤務しつつ、その経験をもとに、「物」も「想い」も余すところなく次の世代へ引き継ぐ相続を目指し、エンディングノート書き方講座も開催。
相続発生後の銀行の手続きなど相続手続きを得意としています。

【お問い合わせ先】

hasuminhelp@gmail.com


監修

岩岡 竜磨(いわおか りょうま)
笑顔相続道正会員
弁護士(岩岡総合法律事務所)
相続、事業承継、中小企業法務、交通・労災事故、親子・夫婦関係の紛争に注力しています。
【お問い合わせ先】
r-iwaoka@i-law-office.com