「遺言」という言葉を聞いたことはありますか。一文字違いで「遺書」という言葉があるので混同してしまい、「死ぬための書き置きなんてとんでもない」という声を聞くこともあります。もちろん、「遺言」は死ぬために書くものではなく、生前に自分の死後の財産の分け方や手続きについての意思を法的に有効な形式で残す文書のことを言います。
遺言の種類や書き方については、また別の機会に触れたいと思いますが、法的に有効な遺言書さえ作成しておけば、本当に自分の思いは伝わるのでしょうか。
筆者が、遺言書の作成についてご相談された場合、しっかりとお気持ちをお伺いした上で、弁護士や司法書士といった専門家の方におつなぎするのですが、遺言書に付言事項(ふげんじこう)をつけておきましょうとアドバイスすることがあります。
付言事項とは、遺言書に記載される、遺産の具体的な分配方法や手続きに関する指示のことではなく、遺言者の願いや希望、遺族へのメッセージなどを伝えるための文言のことです。法的な効果を持つものではありませんが、遺言者の心情や価値観を反映し、相続人の気持ちを和らげて争うことを少なくできる可能性があります。
【付言事項がある場合】
奥様を先に亡くし一人暮らしをしていた太郎さん(仮名)には、気がかりなことがありました。三人の子どもたちに均等に財産を残したいのですが、もうほとんど使っていない別荘を長男に託したいと思っていたのです。託された長男の負担にならないか、ひょっとしたらすぐに手放してしまうのではないか、兄弟姉妹で争うことにならないか、心配でなりません。
そこで、遺言書に付言事項をつけることにしました。別荘を持つことは亡くなった奥様の夢だったこと、念願の別荘を手に入れて毎年家族で過ごす休暇が何よりも宝物だったこと、子どもたちが成人してからはそれぞれの仕事や家のことで数年に一度しか集まらなくなってしまったが、この別荘を親族の絆の場所として大切にしていってほしい、という願いを綴りました。
数年後に太郎さんが亡くなり、子どもたちは父の遺言を受け取り、その付言事項を読んだことで、ある決意をします。亡きご両親の別荘に対する思いは家族の絆に対する思いだったのだと知って、年に一度はこの別荘に親族で集まって過ごすことにしたのです。また、別荘のメンテナンスや費用も兄弟姉妹で協力し合っています。お孫さんも含めて総勢10名を超える賑やかな声は、きっと天国のご両親にも届いていることでしょう。
【付言事項がなかった場合】
もし、太郎さんの遺言書に付言事項がなかった場合、どうなっていたでしょうか。
実は、別荘も自宅も誰も譲り受けたい希望はなく、兄弟姉妹で仲良く分けてとは聞いていたので、すべて売却して三人で均等に分けるつもりでいたそうです。「付言事項を読むことで両親の真の思いを知ることができ、兄弟姉妹の絆も深まったように思います。」と話されていました。
まとめ
付言事項とは、言ってみれば、天国からの手紙を生前に準備しておくようなものでしょう。
生前にはなかなか伝えることのできなかった思いや、遺産の分配がどうしても不公平になってしまう場合の理由など、争う相続を少しでも回避することができるように、残された家族の絆が深まるように、家族への最後のメッセージを用意しておいてほしいものです。
また、思い出を振り返り、家族や大切な方々への思いを整理していくためにも、まだ先が長く元気なうちから、エンディングノートを書いていくことをおすすめしています。
金田 京子 (かねだ きょうこ)
ファイナンシャルプランナー
ライフプランニングや家計の見直しなどを中心に1万件を超える個別相談に携わり、金融教育インストラクター、セミナー講師としても活動。
法律事務所・金融機関勤務での経験や知識を活かしながら、専門用語を使わずにわかりやすい言葉で、世代間をつなぐ相続・終活コンサルティングをおこなっております。
【保有資格】
2級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)
相続診断士® 笑顔相続道正会員
終活カウンセラー®1級
トータルライフコンサルタント(生命保険協会認定FP) など
【問い合わせ先】
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