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令和6年から始まる、相続関係の新制度の解説

公開日:2024-01-01 06:00

目次

1、はじめに

新年明けましておめでとうございます。

昨年は、相続によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合には、土地を国庫に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」が開始するなど、所有者不明土地(登記簿から所有者が直ちに判明しない土地や、その所在が不明で連絡の付かない土地)の解消に向けた施策が動き始めた年でした。

また、あまり話題にはなりませんでしたが、遺産分割における寄与分や特別受益の主張は、相続開始から10年の期間に制限するとの改正法(民法904の3)の施行が始まり、「争族」の現場を扱う弁護士としては、こちらも重要度の高い法改正でした。

引き続き、「相続登記の義務化」元年である今年も、相続の実務が大きく変化することが予想されます。

今回は、相続分野における令和6年から始まる新制度について、2点解説をしていきます。

2、相続登記の義務化

読者の皆さんは、「親が亡くなってから、田舎の土地の名義変更をせずにほったらかしにしていた(あるいは、現在進行形でほったらしている)」という経験はありませんか?

所有者不明土地の発生を防ぐための施策として、4月1日から、いよいよ相続登記の申請が義務化されます。

具体的には、以下のいずれかに該当する場合、相続登記の申請をしなければなりません。

①相続・遺言によって不動産を取得した人は、所有権の取得を知った日から、3年以内
②遺産分割が成立した場合には、遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内

また、正当な理由なく、相続登記の申請を怠った場合には、10万円以下の過料(刑事罰の科料ではありません)の対象となります。

係争中の案件では、相続が開始してから相続登記の申請まで、3年を優に超えるようなケースもありますが、「相続人申告登記の申し出」をすれば、相続登記の申請義務を履行したとみなすとされましたので(不登法76の3)、まずは、『登記簿上の所有者である山田太郎の相続人は私です』という申告をすることが必要となります。

筆者の経験でも、様々な事情から、あえて「遺言者の死亡からX年間、遺産分割を禁止する」という遺言書を作成したことがありますが、そういったケースでは、相続登記はせずに(遺産分割が禁止されているので出来ない)、相続人であることの申告だけは登記しておき、遺産分割までの間、誰が相続人であるのかということだけは公示しておく、といった対応が求められることになります。

気になるのは、法務局がどのような方法で、相続登記が放置されているのかを発見するのか、過料の対象となる不動産を発見するのかという点ですが、昨年9月に法務省の通達がありました(法務省民二第927号 令和5年9月12日)。

相続登記の申請義務の違反を発見し、申請を催告するケースとして、以下のとおりです。

①相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき
②相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき

少し難しい言葉が並んでいますが、遺言書や遺産分割協議書には、A、B、Cと3つの物件について記載があるのに、A物件についてのみ相続登記が申請されたような場合が想定されています。

法務局に提出された書類の内容から、明らかに他にも相続不動産が存在することが分かったような場合というのが、現時点で想定されている申請義務違反の発見の端緒とされています。

もっとも、これは「現時点で」想定されている申請義務違反の発見の端緒に過ぎず、義務化された相続登記を放置しておいて良いという理由にはなりませんので、年末、三が日等を利用して家族が集まったときに、ぜひ、心当たりがないか話し合ってみることをおすすめします。

4月1日よりも以前に相続が発生したケースでも、相続登記の申請は義務となります。

3、嫡出推定制度の改正

こちらはあまり話題になっていませんが、明治時代から続く、民法の嫡出推定制度が改正されます。

相続登記の義務化と同様に、4月1日から施行されます。

(代理出産などの極めて限定的な事例を除き)血縁上の母子関係は、分娩したという事実それ自体から明らかです。

それに対して、血縁上の父子関係は、DNA鑑定以外の方法では厳密な意味では証明ができません。そのため、戸籍上の夫婦から生まれた子どもは、通常は、血縁上も夫の子であるだろうと考え、民法は、嫡出推定という制度を置いています。

具体的には、現在の民法では、離婚から300日以内に生まれた子どもは前夫との婚姻中に懐胎した子だと推定されています(民法772②)。

ところが、この規定があるために、DV被害から逃れ、あるいは離婚までに長い年月を要したケースであっても、離婚から300日以内に生まれた子どもであれば、戸籍上は前夫の子だと推定されるという結果を招いていました。

血縁上、別の父がいたとしても、離婚から300日以内に生まれた子どもは前夫の子だと推定され、前夫を父とする旨の出生届でなければ受理されないことから、このような取扱いを避けるため、母が子の出生届を提出せず、子が無戸籍となる、という問題が生じていました。

そこで、4月1日から施行される民法では、離婚から300日以内に生まれた子は、前夫の子であると推定するとの原則を維持しつつ、「女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。」(民法772③)との条文を加えることで、「離婚から300日以内に生まれた子であっても、母の再婚後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定する」という仕組みを設けました。

これによって、例えば、前夫との夫婦関係が破綻し、離婚係争中に、新しいパートナーが見つかったという女性でも、安心して出産・再婚ができるということになります。

なお、この「離婚から300日以内に生まれた子であっても、母の再婚後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定する」というルールを加えるにあたって、離婚から100日を経過した後でなければ再婚できない、いわゆる再婚禁止期間の条文は廃止されました。

戸籍上、誰の子どもなのかという問題は相続権の有無にかかわる重要な問題ですので、今回、嫡出推定制度についても取り上げました。

4、おわりに

核家族化が進み、親の介護・終活について日常的に考える機会が減った昨今、年末年始・正月三が日は、家族が集まって話し合う絶好のチャンスです。

特に、相続登記の義務化は、親(祖父母)が亡くなってから、田舎の土地の名義変更をせずにほったらかしにしていないかを見直し、そして、一家の過去(歴史)と、未来(終活)について話し合う契機となり得る、大きな制度変更です。

「祖父母・親の残した不動産について、名義変更をしていない」

私のことだと思った読者の方は、ぜひ、家族で話し合って頂き、その上で、お近くの笑顔相続サロン、相続診断士、司法書士の先生にご相談ください。

大石誠(おおいしまこと)

弁護士(神奈川県弁護士会所属)
笑顔相続道®正会員
相続診断士
「相続とおひとりさま安心の弁護士」
平成元年生まれ 平成28年弁護士登録
横浜で、おひとりさま・お子様のいないご夫婦が、老後を笑顔で過ごすための終活・生前対策と、遺言・遺産分割をめぐる相続トラブルの解決を得意としている。
遺言、後見、死後事務はもちろん、提携先の身元保証会社の紹介なども含めて、相続・終活についてワンストップで対応している。

【お問い合わせ先】
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