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通帳が持つ力

公開日:2023-12-04 06:00

目次

みなさんは、ご自身の預金口座について、紙発行の通帳を使っていますか?それともウェブ通帳でしょうか?昨今、大手金融機関では新規口座開設の際、紙の通帳発行を選択すると手数料が発生する場合もあり、通帳レス化を推奨しているようです。そもそもネット銀行の場合は、通帳の発行もありません。また、通帳を持っていても、生前整理や断捨離などで、繰越済みの通帳を捨てる方もいます。

では、通帳は、ウェブで見られればいいものなのでしょうか。過去の通帳は不要なものなのでしょうか。

実は、通帳は、生前対策や相続の場面で、とても役立つツールとなります。今回は、通帳の保管のメリットをお伝えします。

1 口座の把握

もし、遠方に住んでいる親が亡くなった時、親名義の預金口座を全て把握できていますか。なんとなくこの金融機関を使っていたはずということは分かっていても、それ以外の金融機関のことは全く分からないということもよくあります。

そういう場合に、通帳があれば、預金口座を把握することができます。

少額しか残っていないから本人も忘れてしまうし、通帳も処分してしまうのではと思われるかもしれませんが、筆者の経験では、数百万円残高がある口座の通帳を紛失したままにしている人や、口座の存在自体を忘れてしまっていたという話は、実は、とてもよくあることです。

通帳などの手掛かりがない状態で、預金口座を探すのはとても手間暇もかかりますし、見つけられない時もあるかもしれません。このように、通帳があれば、利用していた金融機関がすぐに把握できます。

ところで、銀行名や口座番号を書き残しておけば、通帳は捨ててしまってもいいのかというと、そうではありません。通帳には、他にも大きな役割があるのです。

2 通帳の記載を見て収支の把握

ご本人がご存命の時も、亡くなった後でも共通しますが、通帳の記載は、ご本人の生活の収支が分かる貴重な資料となります。

例えば、年金、配当金、保険料、クレジットカード、NHK、水道光熱費、定期購入品など、通帳を経由する取引は通帳の記帳項目を見れば把握できます。そうすることで、財産の見落としの防止と、契約関係を調べる手間を省くことができます。

通帳の記載からこんなことが分かったケースもありました。認知症が進み後見制度を利用したAさんの通帳の記載を確認していると、毎月、数万円の引き落としがありました。調べてみると、健康食品などを扱う会社の定期購入のお支払いでした。しかしそのAさんの家には、健康食品などが見当たりません。そこでその商品の送付先を調査したところ、Aさんの知人宅に毎月配送されていることが分かりました。すぐに定期購入の契約は解除し、商品を受け取っていた方から事情をよく聞き、これまで受け取った商品分の代金を返還してもらいました。

紹介した例は、少し珍しいことかもしれませんが、例えば、まったく使用していないスポーツクラブの利用料や年会費だけを支払っているクレジットカードなど、月々の引き落としの中にも、気を付けて確認したいものがあります。通帳があれば、これらの確認がすぐに可能となるのです。

3 相続時に必要になる取引履歴

相続が発生した際にも、通帳は、とても大きな役割を果たすものです。

一般的に、相続が発生すると、預貯金については残高証明書をとります。これは亡くなった日時点の残高を証明する書類です。

しかし、相続税申告が必要になる場合は、必ず税理士は数年分の取引履歴の確認をします。

なぜなら、生前贈与がないか、金額の大きい支出や収入がないかなどを確認する必要があるからです。

もし、通帳がない場合は、取引履歴の発行を金融機関に依頼することになります。この取引履歴の発行手数料は、金融機関で様々ですが、発行を依頼する期間が長くなると、相当な費用になります。

いくつか例を挙げてみます。もし5年分(60か月)の取引履歴が必要と言われた場合、いくらの手数料が必要になるでしょうか。

〈取引履歴発行手数料の例〉

みずほ銀行  60×330=19,800円

 楽天銀行   524+(60―6)×110=6,464円

 ゆうちょ銀行 550円

発行手数料は、1金融機関につきではなく、1口座につき上記の手数料が必要となります。しかも、取引がある月だけ発行してくださいという依頼はできず、取引があってもなくても、発行依頼をした期間すべてに発行手数料が発生します。

ちなみに、ウェブ通帳でもウェブ上で確認できる期間は、金融機関によって様々で、2年分しか見られないということもあります。それ以前に、パスワードなどが分からず、ウェブ通帳にアクセスできない可能性もあります。

このように、必要な期間や預金口座の数によって、取引履歴の発行手数料は、相当な額になる場合もあります。通帳さえあれば、この発行手数料は支払う必要がありません。

ちなみに、金融機関の取引履歴は、過去10年分しか発行してもらえません。この点も注意しておきたいものです。

4 通帳に手書きで書きこんだメモ

最後に、通帳に書き込んだメモが笑顔相続につながった例を紹介します。母の遺産について、3人の子が遺産分割協議をすることになりました。通帳が見当たらず、金融機関に取引履歴を発行してもらったのですが「50万円」や「100万円」「300万円」など複数回の現金引出がありました。金融機関が発行する取引履歴には、当然、現金で引き出した場合は「現金」「出金」としか記載されず使途が分かりません。振込についても振込先の記載がない場合があり、どこに振込をしたかわからないこともあります。

取引履歴を見た相続人の1人が、「こんな取引、覚えがないし、亡くなった母はこんなにたくさん現金を家に置いておく人でなかったから、もしかしたら、兄弟の誰かが引き出したのではないか」と言ったことから、相続人間の関係がぎくしゃくしていました。

そんな時、自宅を整理していると、問題となっている口座の通帳が発見され、そこに亡くなった母の手書きで「結婚祝い」「孫 お祝い」とそれぞれメモ書きがされていました。それを見て、そういえばそんなことがあったし、この時期は兄の子どもが結婚してなどと、相続人全員が現金の流れに納得することができ、無事円満に相続手続きが出来たということもありました。

5 通帳は保管、そしてできればメモを

通帳は、ただその時のお金の残高を知るための紙ではありません。その人の長期間にわたってお金の流れを知ることが出来る、貴重な資料です。

通帳は、出来る限り保管し、ウェブ通帳を使用している方も、できればプリントアウトして保管することをお勧めしています。

また、大きな金額を動かすときは、なるべく通帳にメモを残すことをおすすめしています。相続に限らず、いつ、どこから、どこへ、いくら支払ったかを説明するためには、領収書だけでは十分でない場合があり、通帳で、はっきりそのお金の流れが見えたことで、トラブルが解決することもよくあるからです。

6 エンディングノートで財産を守る

このコラムの中では、触れられませんでしたが、定期預金や出資金などについては、通帳はなく、紙1枚発行されてそれを保管してくださいという時代もありました。

また、最近はネット銀行やネット証券も浸透してきたことから、家族や関係者が分かりやすい形で、情報を残すことがこれまで以上に大切になっています。

情報を残す方法として、とても有効なものがエンディングノートです。エンディングノートは様々なものが出回っていますが、筆者がおすすめするエンディングノートは、「終活・相続の便利帳」(一橋香織著・日本法令)です。財産の整理だけでなく、人生の振り返り、これからの生き方を考えられるライフノートになっています。

ぜひ、通帳の管理とエンディングノートの活用で、大切な財産を次世代につなぐ一歩にしてください。

蓮見 倫代(はすみ みちよ)

笑顔相続道正会員
相続診断士
都内法律事務所でパラリーガルとして約20年勤務。
自身が経験した相続を通し、家族間のトラブルは相続放棄でも起こることを実感。そんな中でも「相続放棄をしても奪われない遺産」を受け継いでいることに気づけたことで相続の力を知る。「物」も「想い」も余すところなく次の世代へ引き継ぐ相続を目指し、各専門家と連携し日々奮闘中。
相続発生後の相続手続きを得意としています。

【お問い合わせ先】
hasuminhelp@gmail.com