●はじめに●
「認知症になったら銀行からお金が出せなくなる」というのは聞いたことがあるのではないでしょうか。銀行は口座名義人が認知症だと知ったら、その銀行口座を利用できないように凍結します。凍結された口座はたとえ家族でも出金、解約などできなくなってしまいますので、認知症の親の介護費用を捻出しようと思ってもお金が出せない、という困った事態が発生します。
ではなぜ凍結するのでしょうか。これは一言で言うと「口座名義人の財産をトラブルや悪意から守る」ためです。理屈は分かるのですが、この状態になってしまうと本人だけでなく家族も困ってしまいます。
こうなると銀行預金に100万円あったとしても、100億円あったとしてもまさに絵に描いた餅。「もしものためにお金を準備しておく」だけでなく、「お金を使える状態にしておく」ことも大切です。
●生命保険の場合はどうなる?●
先ほどは銀行預金のお話でしたが、生命保険はどうなのでしょうか。結論から言うと凍結はせず有効です。
ただ、困るのは死亡保険金以外の受け取りや諸手続きについてです。
保険種類、保険会社により異なりますが、おおまかにいうと後述する2つの「事前に指定した代理人」が代わりに手続き出来ます。今回は契約者、被保険者ともに父(認知症)とし、同居の息子が保険の手続き関連を父に代わって行いたい場合を想定します。
●被保険者(父)が受取人の保険金請求●
例えば病気で入院した時の給付金や介護保険金の請求です。保険金等を受け取る場合、受取人の意思表示が必要になります。しかし、介護保険金を受け取るべき父は認知症なので「介護保険金を受け取ります」という意思表示が出来ないことになります。
こういった場合に備えて生命保険には「指定代理請求人制度」があります。例えば父が息子を指定代理請求人に指定していれば、息子が代わって保険金の請求が出来ます。
しかし請求できても前述のとおり認知症の父の口座に保険金が振り込まれたのでは結局お金が使えませんので、指定代請求人(息子)の口座へ振り込みも可能な保険会社がほとんどです。
この「指定代理請求」は現在の保険業界では「当たり前」のレベルのため、保険加入時に契約者側から何も言わなくてもアナウンスがあったり、付加されていると思います。しかし、メンテナンスをしていないと指定代理請求人が高齢の母のままになっていることもしばしばです。指定代理請求人の変更はいつでも無料で出来ますので気になる方は担当に調べてもらいましょう。
●保険を解約して現金化したい●
介護費用の準備のため、貯蓄型保険を解約したいという場合もあるでしょう。しかし解約には保険契約者の意思表示が必要なため、指定代理請求人では手続きが出来ません。そのため、認知症の契約者の解約は成年後見人が必要になるケースがこれまでありました。
しかし最近一部の保険会社で「保険契約者代理」という制度がスタートしました。
これは契約者(父)の判断能力があるうちに事前に指定(例えば息子)をしておくと、認知症になっても父の代わりに息子が解約や契約者貸付(保険からお金を借りること)等をできる、という優れものです。
この点だけ考えても、預金の一部を生命保険に変えておくというのは、資産凍結対策に有効といえるのではないでしょうか。
ただし、この保険契約者代理請求人は元気なうちに指定しておかないと、認知症になってからでは指定も変更も出来ません。また本制度は最近になって保険会社で取り扱いスタートしたものですので、保険会社ごとに対応出来る内容に差があります。詳しくはご自身の保険担当までご確認ください。
●おわりに●
財産はそれが使えてはじめて価値を発揮します。
生命保険に限った話ではありませんが、認知症になってしまうと対策のしようがありません。財産を塩漬けにしないためにも、元気なうちに家族と話し合うことをおすすめします。せっかくの機会ですので保険に限らず人生の棚卸をかねて、ご夫婦で、親子でエンディングノートを書いてみるのも良いですね。
福本 知輝(ふくもと ともき)
寺院コンサルタント
2級ファイナンシャルプランニング技能士
相続診断士 笑顔相続道正会員
終活カウンセラー1級
西日本を中心に寺院向けの生命保険、資産運用のご提案、檀信徒さま向けの相続相談業務を行っています。お寺ならではのお悩みに寄り添い、解決するお手伝いを致します。
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