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実家が借地権の場合の注意点

公開日:2023-08-07 07:58

目次

不動産取引は複雑で理解するのが難しいと感じている人も多いでしょう。特に借地権についてはさらに理解が難しいと感じてしまうかもしれません。しかし、どうぞ安心してください。実は、専門家でさえも借地権は難しいと感じています。それは、一部は知識的な複雑さからくるものですが、筆者が感じる主な理由は、「個性の強い地主が多い」という事実にあります。

実家の土地が借地権である場合、終活や相続のタイミングで何に注意をして、どんな手続きが必要なのでしょうか?

借地権の相続手続きや相続後の売却をスムーズに進めるコツは、地主との関係を良好に保ちながら手続きするということです。なぜ、地主との関係が重要なのでしょうか? また、地主との関係を良好に保つために必要な知識とポイントをお伝えしていきます。

1.路線価図の見方

まず、借地権についての基礎知識として、路線価図の見方を理解しましょう。路線価図を見たことはありますか? 国税庁のホームページで閲覧することができますので、あなたの自宅の前面道路の路線価を確認してみてください。

https://www.rosenka.nta.go.jp/

所有権を土地の100%の権利とすると、借地人(土地を借りている人)と地主(賃貸人)でその権利を分けられています。賃借人側の権利の割合を借地権割合と呼びます。

路線価図では、この割合はアルファベットで表示されており、A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%が借地権割合です。地価が高いエリアほど借地権割合が高くなる傾向があり、住宅地では6~7割、商業地で8割~9割程度が一般的です。

下記は東京駅前の路線価図です。

路線価は平方メートルあたり2,255万円で、借地権割合が90%となっています。対象の土地がこの道路に接道している場合、土地面積に路線価を掛けることで、その土地の大まかな路線価格が算出できます。

2.借地権には価値がある

路線価に借地権割合を掛けた値が借地権の評価額として用いられます。つまり、借地権とは、土地の所有者ではないものの、土地を利用できる価値ある権利と考えられます。例えば、東京駅前の土地の場合、所有権価格の90%が借地権価格になります。

しかし、多くの相談を受けていると一定数の相談者は、「土地は借りているだけなので、地主に更地に戻して返さなければならない」と誤解して、地主に無償で返すつもりの人がいます。しかし、借地権は土地を利用できる価値ある権利であり、相続人に相続される資産なのです。相続財産に含まれ、条件が整えば地主に買い取ってもらうことも、第三者に売却することも可能な資産であるということを念頭に置いておいてください。

3.相続したときの名義変更手続き

借地権を相続した場合、地主との賃貸借契約の名義を相続人へ名義変更する手続きが必要です。

相続した後、速やかにこの手続きをしますが、地主に話をする前に一度、専門家に相談することをお勧めします。地主へ話し方や手順を誤ると、地主の気分を害して、円滑に進行すると思われたことが、停滞する可能性があるからです。

相続人がどのように土地を利用したいか、例えば実家に住む、賃貸に出す、あるいは売却するなどの意向を整理し、それを基に専門家に相談することで、地主へどのような順序で話を伝えるべきか、また手続きの方法やアプローチ方法が具体化できるようになります。

専門家に相談する理由は、地主に順序立てて話をすることで、地主との関係を良好に保つためです。逆に、地主の機嫌を損ない関係が悪化すると、弁護士や裁判所を介する必要が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

4.借地権を売却する場合

名義変更が終了し、借地権を売却したい場合、譲渡に関して地主の承諾を得ることが前提になります。承諾を得られない場合には、裁判所へ借地権の譲渡の許可を求めることになります。これを借地非訟といいます。借地非訟は、費用も時間も労力も奪われ、さらに売却価格が低くなる可能性が高いため、絶対に避けるべきです。

これを避けるためには、地主とのコミュニケーションが重要です。まずは、地主が購入するかどうかの確認をします。条件が合えば、地主に売却し、売買が完了します。もし第三者に売却する場合は、地主から譲渡承諾を得るために、賃借人は地主が取り決めた譲渡承諾料を支払う必要があります。はじめから第三者へ売却するつもりであっても、地主へおうかがいを立てる意味で、先に地主へ売却の話を持って行きましょう。これくらい慎重に話を進めてください。

譲渡承諾料は、借地権価格の10%程度である場合が多いですが、地主によって借地権価格の算出方法が違ったり、割合が違ったりするので、確認が必要です。

また、一般的には建替承諾料は、借地権価格の5%前後、更新料も建替承諾料と同程度である場合が多いです。

5.担保権の設定合意書

借地権の売却先は、一般のエンドユーザーか不動産業者である可能性が高いと考えられますが、購入者が誰であるかにかかわらず、エンドユーザーが、住宅ローンを利用して、この物件を購入できるか否かが、最終的な売却価格を決定する重要な要素になります。不動産業者が購入したとしても、転売により、最終的な売却先が一般消費者になることが多いため、物件としての価値は、住宅ローンの融資が受けられるかどうかに依存します。

物件が接道していないとか、建築不可能な土地である場合には、そもそも住宅ローンの利用が難しい可能性が高いのですが、この条件をクリアした場合でも、さらなるハードルがあります。

銀行から求められる「借地権上の建物に対する担保権の設定合意書」(銀行によって書類の名称はことなります)に、地主からの署名と印鑑証明書を取得する必要があります。地主が署名を拒否する場合、銀行からの融資を受けられないので、売却価格は下がります。地主と良好な関係を築き、この書面に署名がもらえるか否かがポイントになります。

6.地主とは良好な関係を

今までの内容で、地主のご機嫌取りが過ぎるのではないか? と思われる読者もいるでしょう。地主と賃借人の関係やパワーバランスをわかっていないと大きな不利益を被ります。慎重に地主の気持ちを考えて、意向を説明し、手続きをしていくことは無駄ではありません。

地主は、譲渡承諾料、建替承諾料、賃貸借契約の更新料の金額や地代の設定に影響を及ぼし、最終的な物件の売却価格にもつながる重要な要素です。地主とのトラブルで、売却したいのに、借地権の譲渡承諾を得られない可能性もあります。その場合、借地非訟といいますが、裁判所へ借地権の譲渡の許可を求めることになるので、お金も時間も労力も奪われます。大幅な投資が必要な上、購入者へのメリット提供による価格低下というリスクも伴います。

通常のマンションの売買であれば、大抵の不動産業者は、トラブル無く取引ができるでしょう。しかし、借地権や底地権は違います。経験不足の不動産業者が地主との関係をこじらせて、依頼者が不利益を被ることは多くあります。取引をスムーズに進めるためには、借地権や底地権について深い知識と経験を持つ不動産業者の選択が重要です。地主との関係は、取引における重要なパワーバランスであり、その理解と適切な対応が必要とされます。

柏原 健太郎(かしわばら けんたろう)

株式会社クレス
NPO法人資産と暮らしの相談センター 理事
笑顔相続道正会員
宅地建物取引士、相続診断士、終活カウンセラー2級、2級ファイナンシャルプランナー
不動産業界19年、ご相談内容によって、弁護士、税理士、司法書士、行政書士などの各専門家と連携しながら、問題を解決していく不動産屋です。相続、離婚、借金の問題に誠心誠意取り組みます。

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