「ところで日本で遺言書を作っている人ってどのくらいいるの?」
先日、ある相談者からこのような質問がありました。
この数年、終活やエンディングノートが広まり、生前に準備や対策が必要だという認識はかなり広まった印象を受けます。
自筆証書遺言についても、財産目録に関してはパソコン等での作成も可能となり、不動産については登記事項証明書を、預貯金については通帳の写しを添付することでも認められるなど作りやすく合理化されています。
令和2年(2020年7月10日)には法務局での自筆証書遺言書の保管制度も始まり、この場合は家庭裁判所での検認も不要となりました。
このような経緯から、遺言書を作成するというハードルはかなり下がったように見えますが、実際はどうでしょうか。
1.日本の遺言書作成の割合
では、どのくらいの人が遺言書を作成しているのかという現状を、以下の3つのデータからみていきましょう。
1-1.公正証書遺言の作成について
日本公証人連合会が公表した、令和4年の公正証書遺言作成件数は11万1977件でした。
過去10年の推移をみても大きな変化はありません。
公正証書遺言を作成した年齢のデータはありませんが、総務省統計局によると日本の65歳以上の人口は3,620万人です。このうち遺言書の作成が可能な人数となるともう少し減少しますが、作成件数はかなり少ないといえます。
参考リンク:日本公証人連合会令和4年の遺言公正証書の作成件数について
1-2.遺言書の検認件数について
遺言書の年間検認件数は、緩やかに増加しています。
しかし検認は死亡後の手続きになりますので、その年の死亡者数と一緒に考える必要があります。
令和3年で比較すると、この年の死亡者数は143万9856人でそのうち65歳以上の死亡数は131万4242人です。
検認件数は、公正証書遺言や保管制度を利用していないその他の遺言の件数となります。緩やか増加していることは生前対策への意識の表れですが、死亡件数を考えると大変少ない数です。
参考リンク:令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
1-3.法務局での遺言書保管数について
令和2年7月から始まった、遺言書保管制度の保管件数の最新の累計件数は54,210件です。
まだ始まったばかりなので、件数としては少ないですが、今後も減ることなく保管件数の累計が増えていくことが重要です。
参考リンク:法務省民事局・遺言書保管制度の利用状況
2.遺言書を書かない理由
つぎに、なぜ遺言書を書く人が増えないのか?代表的ないくつかの理由についてみていきます。
2-1.遺言書を書くほど財産はない
多くの方が遺言書を書くのは財産のたくさんある人だという思い込みがありますが、争いになる多くは、遺産額5千万円以下が約75%です。そしてなにより遺産額が1千万円以下で争っている人が約34%もいることです。
このことから、もめ事に財産の額はあまり関係ないといえます。
2-2.家族みんな仲良しなので問題ない
子どもたちと財産の分け方を話し合って決めており、交流もあり仲が良いので、遺言書を作るのは信用していないようだと思われるのもわかります。
しかし、実際のもめ事は本人が亡くなった後に、仲のよかった家族が相続人以外の配偶者などを含めておこり、単純にどちらが悪いという問題ではないので、一度もめると解決が難しくなります。
2-3. 作る必要性がわからない
漠然と遺言書はある方がいいとわかっていても、必要と感じなければわざわざ作ろうと考えないと思います。
例えば、法律で分け方決まっているのになぜ遺言書を作る必要があるのかわからない、という人もいます。
分けなさいと決まっているわけではなく、民法に法定相続割合という分け方が定められているということです(民法900条)。さらに民法には相続人同士で話し合って分け方を決めていいですという定めもあります(民法906条)
つまり、どう分けるかは決まってはいません。
そして、分けやすい現金だけが財産ではありません。不動産は分けることが難しく、また自宅の場合は引き続き誰かが住み続けることもあります。
複雑な事情や想い入り混じった財産を残された者だけで話し合い決めるのは、心身ともに労力がいり争いの火種になりかねません。
もう一つは、今はまだ元気だからもう少し先になったら考えるという人が多いのではないでしょうか。
むしろ、元気な今でないと遺言書を作ることは難しくなります。
遺言書は自身の意思表示が必要なので、認知症や病気を発症すると相続について考えることができなくなります。
つまり、遺言書作成は元気だからできるという証しなのです。
さいごに
書いた方が良いとわかっていても、どうして書いていない人が多いのでしょう。
2012年に経済産業省が実施したアンケートの中で、遺言書を作成するきっかけは?という質問に対して一番多い回答が「家族の死去や病気、それに伴う相続」でした。
やはり一度相続手続きで大変な経験をしなければ、自分の時にはあらかじめ準備しようと思えないということだと言えます。
今起きていない不確定な問題を想定して動くということは難しく、むしろ何を対策すればよいか思いつかないと思います。
しかし「もめ事にならないよう仲良くして欲しい」「誰に何を渡すかの分け方に希望がある」「できるだけ面倒をかけたくない」など、それぞれ想いはあるはずです。
その心の中の「想い」を目に見える「カタチ」に残して叶えていく方法が遺言書です。
遺言書はもちろん自分で作成できますが、想いを文章にするのが難しいときは、専門家にヒアリングしてもらうことで、自分の望む遺言書を作成することもできます。
上田静香
行政書士上田静香事務所 https://www.su-souzoku.com/
代表 上田静香(うえだ しずか)
2013年行政書士事務所を開所
一般社団法人相続診断士協会パートナー事務所
相続診断士
笑顔相続道正会員
終活カウンセラー
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家族が争うことなく大切な毎日を笑顔で送る生前対策を提案し
悲しみの中で慣れない相続手続きをする大変さや不安を解消します。