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人生100年時代を生きるために考える生前の備え

公開日:2023-05-08 06:00

目次

はじめに

私たちのライフプランの目安は100歳がスタンダードとなり、その際にポイントになるのが「健康寿命」です。

2000年にWHO(世界保健機関)が提唱した健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。

つまり、介護などが必要なく心身ともに自立し、健康的に生活できる期間のことです。

厚生労働省の「第18回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」(令和4年6月)では、平均寿命と健康寿命の差が、男性9.13年、女性12.68年となりました。

これからは、この健康寿命以降の自立できていないとされる約10年間について、親族の負担にならないような対策を考えることが必要です。

その方法として、士業の立場から「財産管理」や「任意後見」という契約を利用した対策についてまとめています。

1.健康寿命以降の心身が自立できていない具体的状況と日常生活への影響

1-1.身体的に自立できない状態

足腰が弱り1人で外出ができない、またケガや病気で介助や介護が必要な場合や、寝たきりになるなど、身体の状態が悪くなるにつれ、自らの努力では健康的な生活に対応できなくなります。

1-2.精神的に自立できない状態

独り暮らしなどでうつ病の発症や、高齢化による物忘れが多くなることで生活の中でのミスや勘違いをするようになり、更に認知症になると健康的な生活の管理ができなくなり、事故や大きなトラブルになることもあります。

2.心身の自立ができない状況への対策

生前の対策として思い浮かぶのは「遺言書」を書くことだと思います。

たしかに、生前に自分の財産に想いを託して残すことは、もしもの時の対策として、最もポピュラーですが、効力を生ずるのは、遺言者が亡くなった時からになります。(民法985条1項)

では、生きている時に効力を生ずる対策とは具体的に何をすればよいでしょうか?

次の2つの契約は、健康で判断能力が十分なときに備えておけば、生きているあいだに有効な対策ができます。

2-1.財産管理委任契約

本人の判断能力がまだ十分ある段階からでも効力が生じます。

つまり、1-1.で述べたような身体的に自立できない状態になったとき、判断能力があれば、本人に代わって「財産の管理」や「医療機関や福祉サービスなどの利用手続き」を行ってもらう契約です。

委任内容や効力が生じる時期は、公序良俗に反しなければ自由に決めることができ、内容について下記のような業務があります。

・生活費の引出しや解約など金融機関の口座管理
・定期的な収入の受取り
・日用品の買い物、公共料金の支払い
・医療費や福祉サービス利用料金の支払い

その際の注意点は4つあります。

・取消権はない
判断能力のある委任者本人が行った契約は管理を委任された者が取り消すことができない。

・同意権がない
手術や延命治療といった医療行為に関する同意権はありません。

・財産管理委任契約による手続きを認めていない金融機関もある
窓口での手続きを想定している場合は事前確認が必要

・不動産の売買については本人の意思確認が必要
委任契約書に書いていても実質的な意味はありません。

2-2.任意後見契約

認知症や障害などで本人の判断能力が不十分になる前に、あらかじめ本人が選んだ人(任意後見人)に、判断能力が低下した時のために「財産管理」や「医療、介護サービスの利用手続き」など、代わりにしてもらいたい内容を決める。また、定期的な訪問により本人の健康や生活状況を見守ることで、安心して暮らせるようにする契約です。

本人の意思と任意後見契約の内容が法律に合っているか否かは、公証人による確認が必要とされているので、必ず公正証書で作成しなければ有効に成立しません

そしてこの契約は、判断能力が不十分になった時に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立て、選任された時から効力が生じます。

「任意後見監督人」とは、契約内容の不正が行われないように、業務を監督し家庭裁判所に報告する家庭裁判所が選んだ人のことです。

任意後見人がすることができる内容は、財産管理のほか、生活面のサポートになります。

注意点としては以下4つあります。

・取消権がない

判断能力が不十分な本人が不利な状況でおこなった契約でも取消権がありません。

・死後の事務処理の依頼はできない

本人が生存中にのみ有効な契約なので、死後の事務処理などを依頼したい場合は、「死後事務委任契約」を結ぶ必要があります。

・事実行為は出来ない

料理の提供や入浴介助、掃除洗濯やオムツの交換などはできません。
・身分行為や一身専属行為できない
入院の保証人や治療の同意、債務の保証人にはなれません。
法定後見人との違いについて
・あらかじめ決めていないので、判断能力の低下により家庭裁判所が選任する。
・任意後見人にない取消権があります。
・不動産売買は常に裁判所の許可が必要になります。

3.財産管理委任契約と任意後見契約との関係

当事務所では、将来の備えとしては、財産管理委任契約と任意後見契約はセットで考えます。

なぜなら、判断能力は十分あるけれど身体的に不自由になり、財産管理委任契約を利用し、その後、判断能力が不十分になると任意後見契約に移行することで、長期的に切れ目なくサポートすることができるからです。

最後に

 寿命が延びると、生きているあいだの不安を取り除くことも必要で、そのための方法があると知ることで初めて対策について考えられると思います。

遺言書だけでは補いきれない部分を、他の制度と併用して、生前から死後までをサポートすることで、本人の想いを形にでき、安心した生活を送ることができます。

上田静香(うえだ しずか)

行政書士上田静香事務所 代表 https://www.su-souzoku.com/
2013年行政書士事務所を開所
一般社団法人相続診断士協会パートナー事務所 相続診断士
笑顔相続道正会員
1. 健康である今、何も対策をしないと相続が起きた時にどんなリスクが起きるのか?を明確にして対策をお伝えします
2. 難しい法律用語を使わずにわかり易い言葉でご説明します
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家族が争うことなく大切な毎日を笑顔で送る生前対策を提案し
悲しみの中で慣れない相続手続きをする大変さや不安を解消します。